第30話 甘えモードの綾崎先生①

「木村君!テスト勝負しましょう!」

「いきなり家にやってきて何言ってるんですか?」


 午後21時。

 勉強をしていると突然インターフォンが鳴った。

 玄関の扉を開けてみると、おそらく仕事終わりであろう綾崎先生が立っていて、俺の部屋に勝手に上がった。その手にはスーパーの袋を持っていた。

 そして、綾崎先生はいきなりキッチンに向かい何かを作り始めた。

 

 そして現在に至る。 

 サイドテーブルには大量のつまみが置いてあり、目の前にはほんのりと頬が赤い綾崎先生が座っていた。


「テスト勝負しようって言ったの!」

「それは分かってますよ。何でそんなことをするのかって聞いてるんです」

「理由なんてどうでもいいじゃない。やりたいからやりたいの!」


 こうなってしまった綾崎先生に逆らえないことを俺は知っている。

 

「分かりましたよ。どうせ、俺に拒否権はないんでしょ?」

「その通り!よく私のこと分かってるね!」


 綾崎先生は満面の笑みを浮かべると、右手に持っていた缶ビールをグビっと飲んだ。

 その手に持っているもので3本目のお酒となる。

 

「それで、何をするんですか?」

「だから、テスト勝負」

「それは分かってますよ。その内容を教えてください」

「あー!それはね!私が作ったテストで木村君が百点を取れるかどうか!それだけよ!」

「百点以外は俺の負け・・・・・・ですか」

「そうなるわね」

「俺に不利すぎませんか?」

「百点を取る自信がないの?」


 綾崎先生はニヤッと笑って俺を挑発してくる。

 その顔があまりにも憎たらしくて、俺はその挑発に乗ってしまった。


「その勝負受けて立ちますよ」

「そうこなくちゃ!難しいテスト作るわよ〜!」

「どんなテストでも百点取ってみせますよ」

「言ったわね!もし取れなかったら私の言うことなんでも聞いてもらうからね?」

「それは・・・・・・」

「やっぱり自信ないんだ」

「分かりましたよ。それでいいです」


 ここまで言われたら何が何でも百点を取ってやりたくなった。 

 

「もちろん、私だけご褒美があったら不公平だから、もし、万が一、木村君が百点取ったらなんでも言うこと聞いてあげる」

「なんでも・・・・・・」

 

 なんでもというその言葉に思わず唾をゴクっと飲んだ。

 

「あー。もしかしてエッチなこと考えてる?」

「考えてませんっ!」

「本当かな〜?」


 綾崎先生は近づいてきて俺の頬をツンツンと突いた。

 

「や、やめてください!」

「木村君のほっぺモチモチしてて気持ちいいわね」


 そう言って自分の頬と俺の頬を交互に何度も頬 ツンツンしてきた。

 何度目かのほっぺツンツンの末に綾崎先生は「私のやつ触ってみる?」と言ってきた。

 その柔らかそうな白雪のような頬を触ってみたくはあったが、俺は首を横に振った。

 

「つまんないの」


 綾崎先生は唇を尖らせてつまらなそうな顔をすると、俺の方に顔を乗せてきた。

 完全に甘えモードに入っている。

 あの日、元彼と会ったあの日から、綾崎先生は何故だか時たま俺に甘えてくるようになった。

 それが無邪気な子供みたいで可愛い・・・・・・じゃなかった厄介なのだ。


☆☆☆

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