第25話 綾崎先生とデート② 『星空のパンケーキ』
「そ、それで、綾崎さんはどれにしたんですか?」
「私はブルーベリーのソースにしようよ思ってるよ!」
「じゃあ、俺はいちごのソースのやつにします」
それぞれ頼むものが決まると綾崎先生が「すみません~」と店員さんを呼んで注文をしてくれた。
☆☆☆
「それにしてもほんとに若い子しかいないわね~?」
綾崎先生は店内をキョロキョロと見渡しながら言った。
「ですね。てか、大丈夫ですかね?同じ学校の生徒いませんよね?」
「う~ん。パッと見た感じ今はいなさそうね」
「すべての生徒を覚えてるわけではないですよね?」
「一回出たクラスの生徒はみんな覚えてるわよ」
「マジですか?」
「うん。一応ね」
「男女どっちもですか?」
「まぁね」
その事実に俺は驚き目を見開いた。
綾崎先生が赴任してきて一ヵ月と数週間。
どれだけのクラスで授業をしているかは分からないが、おそろらくその生徒数は裕に百人は超えるだろう。
俺たちの学校は一クラスに四十人弱の生徒がいる。二クラス授業に出るとそれだけで百人は超える。
教師からしたら生徒の顔と名前を覚えるのは当たり前なのかもしれないが、少なくとも俺には無理なことだなと思った。
「先生って凄いんですね」
「そうかな?私より凄い先生はたくさんいるわよ」
「そうなんですね」
「うん。私はその人に憧れて教師になろうって思ったの」
「どんな人なんですか?」
「う~ん。笑顔が素敵で、常に生徒のことを考えてて、自分のことは二の次で、どんな逆境にも打ち勝つ人かな」
そう言った綾崎先生は昔を懐かしむような目をしていた。
「その人は今も教師を?」
「ううん。亡くなったの。過労死だって」
「え……すみません」
「ううん。気にしないで。自分のことは二の次みたいな人だったから、気づかないうちに疲労が溜まってたんだろうね。過労死したって聞いた時は、なんだか先生らしいなって不謹慎にも思ってしまったわ。最後の最後まで生徒のために頑張ってた姿が目に浮かぶもの」
「そうなんですね……」
俺たちの間に少しだけ気まずい空気が流れた。
そんな空気など店員さんには関係なく「お待たせしました~」と明るい声でパンケーキをそれぞれの前に置いた。
「ごめんね。変な空気にしちゃったね。さ、食べましょうか!」
綾崎先生は気まずい空気を変えるかのように明るくそう言うとテーブルの上に置いていたスマホでパンケーキの写真を撮り始めた。
そんな綾崎先生から視線をパンケーキに落とした。
丸い形のパンケーキにチョコレートソースがたっぷりとかけられていた。おそらくこれが『夜空』を表しているのだろう。
そのチョコレートソースたっぷりのパンケーキの上に星形のパンケーキが二つ斜めに配置されている。
星形のパンケーキには黄色いソースがかかっていて、おそらくこれが『星』を表している。
そして、その星型のパンケーキの間に生クリームがたっぷりとあり、星と星を繋ぐようにいちごソースがかかっている。
見るからに甘そうなそのパンケーキは季節によって少しずつ変化する予定らしい。
俺がパンケーキを観察している間も綾崎先生は写真を撮ることに夢中になっていた。
「いい写真は撮れましたか?」
「うーん。あんまりかなー。パンケーキ持つから撮ってくれない?」
そう言って綾崎先生はスマホを俺に渡してきた。そして、顔の横にパンケーキを持ち上げると準備万端といった感じで俺のことを見ていた。
「それじゃあ、撮りますよ?」
「うん!お願いー!」
スマホのカメラを綾崎先生に向けると最高の笑顔が返ってきた。
そんな最高の笑顔を画面内に収めシャッターを押した。
「どう?」
「バッチリなんじゃないですか?」
俺はスマホを返し、画面内ではなく生の綾崎先生を見た。
ほんと綺麗な人だよな。俺はお世辞抜きにそう思った。
「うん!いい感じね!ありがとう!」
綾崎先生は満足気に笑うと「ねぇ、せっかくだから一緒に撮らない?」と言ってきた。
「え、一緒にですか?」
「ダメ?デートの記念に撮りたいの!」
「まぁ、いいですけど・・・・・・」
俺が頷くと「やった!」とこちらに移動してきた。
頬が触れそうな位置に綾崎先生の顔がある。
動くたびに髪の毛からいい匂いが漂ってくる。
「じゃあ、撮るよ!」という綾崎先生の掛け声でシャッターを切られた。
いきなり言われたのでビックリして、その俺の顔がスマホに映し出された。
「あはは、何この顔〜」
「いきなりでビックリしたんですよ!」
「一応、保存しとこ!」
「消してください!」
「いいじゃない。これも記念よ!」
「恥ずかしいのでやめてください……」
結局、綾崎先生はその写真を消してはくれなかった。
それから、今度はちゃんと笑顔の写真を撮ってパンケーキを食べ始めた。
☆☆☆
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