第17話 翌日①
翌朝、いつもより一時間遅い午前6時に目を覚ました。
そういえば、ソファーで寝落ちしたんだった。
辺りを見渡してそう思った。
「帰ったんだな・・・・・・」
部屋の中に綾崎先生はいなかった。
ソファーで寝落ちをしたから腰が痛い。
腰をさすりながらゆっくりと立ち上がって洗面台に向かい、顔を洗う。
ふと、お風呂場に視線が行き、昨日のことを思い出した。
「一緒に入ったんだよな・・・・・・」
朝から何を考えているのだろうか、と首を振った。
濡れた顔をタオルで拭くと朝ご飯を食べるためにリビングに戻った。
腕が使えないので、昨日の残り物でも食べようと思っていたら、テーブルの上に置き手紙とおにぎりが2つ置いてあった。
置き手紙の送り主は綾崎先生だった。
どうやら、俺が起きる前に来てくれておにぎりを作って持ってきてくれたことと鍵はポストに入れておいたということが書いてあった。
それを確認するため玄関に向かうと、鍵はきちんと閉められていて、書いてあった通り鍵はポストの中に入っていた。
確認を終え再びリビングに戻り椅子に座っておにぎりに手を伸ばした。
「いただきます」
そう言っておにぎりに手を伸ばした。
手紙にはおにぎりにはそれぞれ違う具材が入ってると書いてあった。
一つ目のおにぎりに齧り付く。
「鮭か」
中には鮭フレークが入っていた。
あっという間に一つ目のおにぎりを完食した俺は二つ目に手を伸ばした。
「こっちは昆布か」
どっちも俺の好きな具材で、どちらも美味しかった。
「ごちそうさまでした」
二つのおにぎりを食べ終えるのに10分もかからなかった。
午前7時まで残り30分。
いつものように自室で勉強をすることにした。
利き腕が使えないから、教科書を読んだりするくらいしかできないが、それでも十分だろう。
自室で30分勉強をすると、制服に着替えて家を出る。
「さすがに今日はいないか」
もしかしたら、今日も待ち伏せされてるかもしれないと思ったが、どうやらそんなことはなかったらしい。
綾崎先生も俺の介護できっと疲れているのだろう。まだ、寝てるんだろうな。
そう思いながら、エレベーターに向かって一階に降りた。
☆☆☆
学校に到着すると、いつものように一番乗りかと思ったら、今日は違った。
もうすでに一人教室に生徒がいた。
おさげに黒縁メガネが特徴の生徒。その生徒が俺のことに気がつき微笑んだ。
「おはようございます。木村さん」
「おはよう。峰本さん」
聖女様もとい峰本さん。
大企業の御令嬢。
いつなら、もう少し後に来るのだが・・・・・・
「今日は早いんだね」
「はい。木村さんの介護を任されたので」
「ああ、そういうこと・・・・・・」
そういえば、昨日、綾崎先生とそんな約束を交わしてたっけ。
それを律儀に守って、俺が来る前に学校に来てくれていたのか。
「悪いな。早く来させてしまって。何時に来てたの?」
「木村さんが何時に来るか分からなかったので、学校が開いたと同時になので、6時ですかね」
「そんなに早くから来てたのか」
俺が起きた時間には峰本さんはもう学校にいたことになる。
「なんだか、申し訳ないな。無理して来なくてもいいからな」
「いえ、無理なんてしてませんから」
「そっか、ならいいんだけど。明日からも来るつもりなら7時20分くらいでいいぞ?」
「はい。わかりました」
俺ために早起きをしてくれたのか、頷いた峰本さんは口元を隠しながらあくびをした。
「眠たかったら遠慮せずに寝てくれていいからね」
「あ、バレましたか。ですが、大丈夫です。せっかく、木村さんと二人っきりの時間ですので、起きときます」
「無理はするなよ」
「はい。それで、木村さん。私は何をしたらいいんでしょうか?」
「うーん。そうだな。読書でもしてたらいいんじゃないか?」
「いや、そうではなくてですね・・・・・・」
俺の冗談に慌てて否定する峰本さん。
「冗談だよ」
「もぅ!からかわないでください!」
そう言っては頬を膨らませた峰本さんが俺の席までやってきた。
「私が言いたいのはですね・・・・・・」
「分かってるよ。ただな〜。峰本さんに介護してもらうと目立つんだよな」
「そんなこと私は気にしません」
「峰本さんが気にしなくても俺が気にするの」
「それじゃあ、何もできないじゃないですか」
しょんぼりとした顔になる峰本さん。
「じゃ、じゃあノートのコピー取らせてくれない?ほら、利き腕じゃないからノート書けないだろうしさ」
「はい!もちろんです!」
俺がそういうと役目をもらって嬉しいのか目をキラキラと輝かせた。
(何この子・・・・・・可愛すぎだろ!)
普段の峰本さんを知っているから余計にそう思ってしまった。
「他に何かしてほしいことはありますか?」
「他か〜」
今のところはそれくらいしか思いつかなかった。
「また何か困ったことがあればその時はいつでも言ってください」
「うん。分かった。いろいろありがとうね。腕が治ったらお礼するからね」
「お礼、ですか?」
「うん。だから、何か欲しいものとか、してほしいこととか、考えておいてくれると嬉しい」
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
どうやら、もう何かあるらしく、峰本さんは少し頬を赤くして何かを言おうとした。
「私とデートしてくれませんか?」
「へぇ?峰本さんも?」
「私も?」
「いや、なんでもない。本当にそれでいいの?」
「はい!私は木村さんと、そのデートというものがしたいです」
「わ、分かった」
「本当ですか!?嬉しいです!」
俺がデートを了承すると、峰本さんは今までで一番キラキラとした笑顔で笑った。
「あの!この勢いで連絡先教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。いいよ」
「ありがとうございます!」
峰本さんと連絡先を交換したところでクラスメイトがぼちぼちと教室には入ってきた。
自分の席に戻った峰本さんは文庫本を開いて、いつもの大人しい生徒に戻っていた。
☆☆☆
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