第16話 ハプニングpart2⑩ 寝落ち

 リビングのソファーに座っていると、可愛らしい部屋着を着た綾崎先生がリビングにやってきた。


「お待たせ。お風呂ありがとうね~」


 そう言いながら俺の隣に座った。 

 隣から俺と同じシャンプーの匂いが香ってきた。

 (同じ風呂に入ってたんだよな……)

 今更ながら、ものすごく恥ずかしい。


「今、髪の毛乾かしてあげるね」

「すみません。ありがとうございます」


 綾崎先生は俺の後ろに回ると、さっそく髪を乾かし始めた。 

 何から何まで甘えっぱなしで、申し訳なくなってる。この腕が治ったらちゃんと二人にお礼をしよう。

 そう思いながら、綾崎先生に完全に身を任す。

 柔らかな手つきで髪の毛を乾かしてくれた綾崎先生。俺の髪の毛を乾かし終わった綾崎先生は自分の髪の毛も乾かした。


「さて、後は寝るだけだね」

「そうですね。眠くなってきました」

 

 俺はあくびをしながら壁掛け時計を見た。

 現在時刻21時。

 いつもなら、まだ塾で勉強をしている時間で眠くなるなんてことはないのだが、今日は美人2人にかなり気を遣って疲弊してるのか、昼寝をしてもまだ眠気を感じていた。


「じゃあ、今日はこの辺でお暇かな」

「そうですね。その、いろいろとありがとうございました。助かりました」

「いいのよ。困ったときはお互い様」

「このお礼は、この腕が治ったら必ずしますから」

「それは、楽しみね。デートでもしてもらいましょうかしら?」

「俺なんかでよければいくらでもしますよ」

「そんなこと言っていいの?期待しちゃうよ?」

「そのくらい助かってますから」

「じゃあ、本当にデートしてもらおうかな~」

「いいですよ」


 なんの躊躇もなく俺は頷いた。

 そのことに綾崎先生は驚いていた様子だった。


「どうかしましたか?」

「本当にいいの?私、おばさんだよ?30代だよ?木村君とは10歳以上も歳が離れてるのよ?」

「何かダメなことがあるんですか?ダメなことがあるとすれば、まぁ生徒と教師ってことくらいですかね。そこは注意を払わないといけないかもしれませんけど、先生が何歳だろうと関係ないですよ?」


 お礼のデートだし、別に恋人同士ってわけでもないし、俺は歳なんてあんまり気にしないし、綾崎先生がそれを望むなら俺はそれをするだけだ。お礼だし。

(てか、綾崎先生って30代なんだな……)

 まったくそんな風には見えなかった。なんなら、20代だと思っていた。


「木村君って変わってるね」

「そうですか?10歳差のカップルなんて今時珍しものではないと思うんですけど、まぁ俺たちは付き合ってるわけではないですけど。それにお礼ですから」

「そ、そうよね……」


 綾崎先生は何故か残念そうな顔をしていた。


「すみません。本当に眠くなってきました」


 俺は大きなあくびをするとソファーにもたれかかった。

(ダメだ……もう眠気に勝てそうにない……)

 ソファーにもたれかかった瞬間に一気に眠気が押し寄せてきて、俺の意識は朦朧としてきた。


「木村君。寝る前に鍵の場所だけ教えて、鍵閉めたら私は帰るから」

「玄関のところにあります……」


 俺は鍵の場所を綾崎先生に伝えると、眠りについた。


☆☆☆


(美紀視点)


「ほんとに寝ちゃった」


 ソファーにもたれかかった正輝君は私に鍵の場所を教えると、すぐに眠りについた。

 

「よほど疲れていたのね」

 

 そんな正輝君の頭を優しく撫でると、私は立ち上がった。

 

「可愛い寝顔」

 

 こんな無防備な姿を見せてくれるってことは一応私信頼されてるってことでいいのかな?

 もしも、正輝君と付き合ったら、もっといろんな顔を見せてくれるのだろうか。なんてことをふと思ってしまった。

 どうしてそんなことを思ったのか、自分でも不思議だった。

 

「私……木村君のこと好きなのかな……」


 高校生に、しかも教え子に恋をするなんて絶対にないと思っていた。だけど、この世には絶対はないのだ。結婚を約束した彼と別れたみたいに。

 

「でも、ダメよね。私たちは先生と生徒。決して許される関係ではない」


 なんて世間では言われてるけど、どうしてダメなんだろうか? 

 そんな理由も考えたことなく、生徒と先生は恋をすべきではないと思っていた。

 しかし、この気持ちは紛れもなく恋だ。

 あの時、私に声をかけてくれた時から、気になってはいた。

 再会できた時は運命だと思った。

 だけど、決して超えてはいけない一線があることも知っている。それは時に運命ですら壊すことができない目に見えない何かで守られている。


「好きだよ」


 そう言葉に出した瞬間、私の心臓の鼓動が早くなったのを感じた。

 やっぱり、私は正輝君に恋をしているみたいだった。


「帰ろう……」


 これ以上、ここにいてはいけない気がして、私は正輝君から聞いた鍵の場所で鍵を見つけると、鍵を閉めて自宅へ戻った。

 その夜はあまり眠ることができなかった。


☆☆☆

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