第15話 ハプニングpart2⑨ 正輝と女神様の過去

「これでも、目を逸らしたままでいられるかな?」


 そう言って綾崎先生は自分の体を覆っているバスタオルへと手をかけた。

 何をする気なのか、まさかバスタオルを取るつもりなのか?

(ますます、見れるか!?)

 俺は絶対に見ないぞと、顔を逸らし続けた。

 そんな俺の視線の先にバスタオルがひらりと舞い降りて来た。

 その瞬間、さっきの意思はどこかへ飛んでいき、俺はチラッと綾崎先生の方を見てしまった。

 

☆☆☆


「あ、やっと見てくれた!どうかな?この水着?」


 どうやら、バスタオルの下は裸、というわけではなく俺と同じで水着を着ていた。

 綾崎先生の雪のように白い肌とは対照的な大人っぽい肩紐のない黒の水着。バスタオルの下に隠れていたのは見事なまでの果実とくびれが露わになり、それは、それで刺激が強かったが、裸ではなくて安心した。


「水着・・・・・・着てたんですね」

「当たり前じゃない。なに〜もしかして着てない方よかった?」

「絶対に着てください!何がなんでも着てください!これからもそれでお願いします!」

「これからも、ね。いろんな種類の水着買わなきゃ!一ヶ月分だから30着か〜」

「いや、そんなに買わなくても・・・・・・」

「いろんな水着見れた方が木村君も嬉しいでしょ?」

「ほんとにそこまでしてもらわなくてもいいんで・・・・・・申し訳ないですし」


 水着姿だろうが、結局は裸とあまり変わらないので俺はずっと下を向いて、綾崎先生のことをあまり見ないようにした。


「冗談よ!流石にそんなに買わないから!後数着は買うかもだけどね!水着はこの1着しか持ってないし。下着ならたくさん持ってるんだけどね〜」

「え・・・・・・」


 下着という言葉に思わず反応してしまった。

 俺の頭に紫色の下着が浮かんできたのは、さきほど外でそれを見たからだろう。そんな煩悩を消し去るために俺は首を横に振った。


「木村君ってさ、女性の水着姿見るの初めて?」

「え、なんでそんなこと書くんですか?」

「なんか、もの凄く緊張してるように見えるから」

「初めて・・・・・・ではないです」

 

 異性の水着姿を見るのは初めてではない。

 初めてではないが・・・・・・こんな美人の、しかも大人の女性の水着姿を見るのは初めてだった。


「ふ〜ん。その相手は彼女?」

「まぁ、はい。元ですけどね」

「そうなんだ。別れたの?」

「ですね・・・・・・」


 綾崎先生にそう言われて、煩悩の代わりに元カノの顔が頭に浮かんだ。

 特に未練があるわけではない。むしろ、浮気をされて別れたのだから嫌悪を抱いていた。

 嫌な記憶を思い出し、俺は下唇を噛んだ。


「ごめん。もしかして、嫌な記憶だった?」


 鏡に写った俺の顔を見てそう思ったのか、綾崎先生は申し訳なさそうな顔をしていた。


「本当にごめんなさい。私ってすぐ気になったことを聞きたくなるタイプなの。それで、先月彼氏とも別たの」


 綾崎先生はその自分の性格に散々苦しめられてきたのだろう。そう分かるほど、鏡に映る綾崎先生の顔は苦しそうだった。


「気になっている・・・・・・気になっていることを聞けるのって凄いと思います。それって、相手のこと知ろうとしてるって証拠じゃないですか。教師とっては必須なんじゃないですか?」

「人間関係では悪いことの方が多いけどね」

「ちなみに、聞いてもいいですか?」

「何を?」

「その、彼氏さんと別れた理由・・・・・・」

「ああ、あっちが浮気してた。何か変だなって思って問い詰めたら、浮気が発覚したのよね」


 そう言った綾崎先生は自傷気味に笑った。 

 

「ね。人間関係ではいいことないでしょ?」

「綾崎先生ほど美人な人でも浮気されるんですね」

「そうね〜。きっとこの性格のせいでしょうけどね。私がいろいろ聞きすぎて愛想尽かされたのよ」

「先生もいろいろと苦労してるんですね」

「そりゃあね。全てがうまくいくなんてことはないわ」

「そうですね」

「て、こんな暗い話は終わり!ほら、背中洗うよ」


 綾崎先生はボディータオルにボディーソープをつけると俺の背中を優しく擦ってくれた。

(ほんと人生は何が起こるかわからないものだな・・・・・・)

 こんなにも美人な人に背中を洗ってもらってるなんて、去年の俺は想像できただろうか。

 元カノとは一度も一緒にお風呂には入ったことなかった。それどころか、恋人らしいことはほとんどしなかった。手を繋いだのも数回だけ、それでよく半年も付き合っていたなと今になって思う。

 それから、「前を洗ってあげるのはもう少し先になったらね」なんて冗談に戸惑いながら、自分で体の前側を洗い、頭を綾崎先生に洗ってもらうと俺はお風呂から上がった。

 

☆☆☆







 正輝君がお風呂から上がると、私は自分の体と頭を洗い湯船に浸かった。

 自分の家に帰ってから入ろうかと思っていたが、輝明君がお湯を溜めてもいいと言ってくれたので、有り難く使わせてもらうことにした。


「相手のことを知ろうとしてる・・・・・・ね」


 そんな風に初めて言われた。

 そんな見方もできるのね。

 この性格がずっと嫌いだった。

 小さな頃から誰にでも聞きたいことをズバッと聞いていた私はこれまでに何人もの友達を失った。恋人を失った。

 たしかに、教師としては必要な力なのかもしれない。自分から助けを求めることができない生徒は沢山いる。そんな生徒を私はこれまでに何人も救ってきた。親身になって話を聞き、問題を解決してきた。

 私が転任する時も、私との別れを名残惜しんでくれる生徒もたくさんいた。

 仕事は順風満帆。私生活はダメ。それが私。


「さて、そろそろ上がろうかな。木村君が待ってるだろうし、髪も乾かしてあげないといけないだろうから」


 私はお風呂から上がり、部屋着に着替えると正輝君がいるであろうリビングに向かった。


☆☆☆


修正点

主人公の名前 輝明→正輝

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