第10話 ハプニングpart2④ 聖女様のあ〜ん


「任せなさい!」


 綾崎先生は涙を拭いて、俺に笑顔でVサインを向けると「ご飯の続きを作りましょうか」と峰本さんに言った。

 峰本さんも「そうですね」と笑顔で頷くと二人は昼食作りを再開した。

 その光景はさっきよりも親子感を感じることができたのは気のせいではないだろう。


☆☆☆

 

 そんな二人が作った昼食がテーブルの上に並べられていた。

 四人掛けのテーブル席、俺の前に二人が座っている。

 右には『女神様』。左には『聖女様』。

 その光景はまさに眼福である。この二人を見ているだけで、ご飯を何杯か食べれそうだった。


「それじゃあ、食べよっか!」

「そうですね」


 三人で「いただきます」をしてご飯を食べ始める。

 右手の使えない俺のために峰本さんがおかずを取り分けてくれることになった。


「何か食べたいものはありますか?」


 そう言われて俺は改めてテーブルの上にあるおかずを見た。

 卵焼き、肉じゃが、野菜炒め、ウインナー、唐揚げ、ロールキャベツ、鮭のムニエル、とどれも美味しそうだった。

 途中、綾崎先生は一回自宅に戻って、俺の冷蔵庫の中の物では足りない食材を取りに帰っていた。

 どれを取ってもらうか物凄く悩む。

 

「どれも美味しそうで選べないんだけど……」

「別に今全部食べなくてもいいのですよ?これだけの量、三人では食べきれないでしょうし、残りは夜にでも食べてくださいな」

「確かに、それもそうだな。じゃあ、まずは唐揚げとロールキャベツをもらおうかな」

「分かりました」


 俺が言った物を峰本さんがお皿に乗せてくれた。

 しかし、その皿を自分の手元に置いた。


「えっと、それはくれるんじゃないの?」

「何を言ってるんですか?もちろん、食べさせてあげるに決まってるじゃないですか」

「え……い、いいよ!?そんなことしてくれなくて、左手でも食べれるから!?」

「本当に食べれるのですか?」


 峰本さんに疑いの目を向けられた。


「由美ちゃん、実際にやってもらったら?」

「そうですね。やってもらいましょうか」


 そう言って、峰本さんはニコッと笑うとおかずの乗ったお皿を俺の前に置いた。


「さぁどうぞ。食べてみてください」


 峰本さんに挑発されながら、俺は左手で箸を持つ。

 さっきは、食べさせてもらうのが恥ずかしくて食べれるなんて言ったが、実際は一度も左手で箸を使ったことなんてなかった。

 だから当然……


「やっぱり食べれないじゃないですか」


 箸で掴もうにもうまく掴めず、唐揚げを食べることができなかった。 

 見かねた峰本さんは俺からお皿を取り上げると、自分の箸で唐揚げを掴んで口元に差し出した。


「どうぞ。食べてください」

「ほら、木村君。食べてあげたら?(ニヤニヤ)」

 

 この人、この状況を楽しんでるな。

 ニヤニヤ顔の綾崎先生は俺たちの恥ずかしいやり取りを楽しそうに見ていた。

 マジで食べるのか……。頬が熱い。

 頬を赤くして恥ずかしがってると、俺のお腹が「ぐぅ~」と鳴った。 

 それを2人は聞き逃さなかったらしい。


「お腹減ってるんでしょ?恥ずかしがらずに食べなよ」

「そうですよ。私もお腹空いてるんですからね。早く食べてください」


 羞恥していても峰本さんが「あ~ん」をやめてくれることはないだろうし、食べないとお腹がどんどんと減っていくわけで、結局、俺に残された選択肢はこの目の前の唐揚げを食べることしかなかった。

 だから、俺は峰本さんが差し出してくれている唐揚げを食べた。


「他にも食べたいものがあったら遠慮せずに言ってくださいね。食べさせてあげますから」


 一回やったら、二回も三回も同じことだ。そう開き直って、俺はその後はお腹一杯になるまで峰本さんにご飯を食べさせてもらった。

 二人の作った料理は普段からやっていることが分かるほど美味しいものだったが、俺は別のことが気になってそれどころではなかった。










 峰本さんは気がついているのか分からないが、俺に「あ~ん」をした箸で自分もご飯を食べていて、俺と峰本さんは間接キスをしてしまっていた。



☆☆☆


 

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