第9話 ハプニングpart2③ 二人の美女と昼食

 なんでこんなことになっているのだろうか。

 俺の家には今、『女神様』と『聖女様』がいる。

 二人の圧倒的な美しさの前に俺は目を瞑った。

 目を開けた瞬間に、これは夢だった……なんてことになるわけもなく、二人の美人がキッチンでお昼ご飯を作っていた。

 その光景はまるで親子で一緒にご飯を作っているかのように見えた。

 すでに二人の間にはそのくらいの仲の良さが見て取れた。


「木村さんは苦手なものとかありますか?」

「な、ないよ。基本的にはなんでも食べる」

「そうですか。分かりました」

「木村君って自分で料理するの?料理道具が一式揃ってて助かるわ」

「綾崎先生は知ってると思いますけど、今は一人暮らしなんで、学校に持っていく弁当は毎日手作りしてます」


 俺がそう言うと、綾崎先生がやってしまったといった感じの顔になっているのが分かった。


「昨日も言いましたけど、俺は気にしてませんから、毎回そんな顔しないでもいいですよ」

「本当にごめん」

「あの、何かあったんですか?」


 そんな俺と綾崎先生のやりとりを峰本さんは不思議そうな顔で見ていた。

 別に隠しておくようなことでもないし、と思って俺は両親が亡くなっていることを峰本さんに話した。


「そうだったんですね。私と一緒ですね」

「え、峰本さんもそうなの?」

「私の場合は母親だけですけどね。母は私を産んですぐに亡くなってしまったそうなんです」


 少しだけ寂しそうな顔をして峰本さんは重大発表を俺たちに告げた。


「私は母の顔も見たことがありませんし、話したこともありません」

「そうだったんだ」

 

 その時、少しだけ峰本さんに親近感が湧いた。

 クラスでは挨拶をするだけの関係だった。

 さらに『聖女様』なんて呼ばれるほどの美人でお嬢様。ずっと雲の上の存在だと思っていた。

 しかし、昨日と今日、峰本さんと話をしてみて分かった。

 峰本さんも一人の女子高生なんだってことが。勝手なイメージ付けて、勝手に遠ざけてしまっていたことを俺は反省している。

 これからは普通に一人の友達として接していければいいなと思っていた。


「だからですかね。綾崎先生とこうして一緒に料理をしていると、なんだか綾崎先生が私のお母さんになったみたいでちょっと嬉しいです」


 そう言って微笑んだ峰本さんに、綾崎先生は泣きながら抱きついた。


「由美ちゃん〜。私にできることがあったら何でも言ってね。本当のお母さんにはなれないけど、今までお母さんに甘えれなかった分、私にたくさん甘えてもいいからね〜」


 いきなり名前を呼ばれたことになのか、急に抱きつかれたことになのか、分からないが、峰本さんは一瞬驚いたような表情を浮かべた。しかしすぐに嬉しそうな表情へと変わってた。


「は、はい。よろしくお願いします」

「うん!それと、木村くんもだからね。甘えたくなったらいつでも私に言うのよ?」


 そして、その矛先は俺にまで向けられた。

 高校三年生にもなって甘えるのはどうなんだと思わなくもないが、綾崎先生は強引なところがあるから、勝手に甘えさせられるんだろうなと思った。


「その時が来るかは分からないですけどね」

「絶対に来るから。一人ではどうしようもなくなる時が。その時は私が助けてあげるから、たくさん甘やかしてあげるから」


 もしも本当にそんな時が来たのなら、きっと綾崎先生は全力で助けてくれるんだろうな。

 綾崎先生と出会ってまだ三日しか経っていないが、俺はそう思っていた。


「そんな時が来たら、お願いするかもしれません」

「任せなさい!」


 綾崎先生は涙を拭いて、俺に笑顔でVサインを向けると「ご飯の続きを作りましょうか」と峰本さんに言った。

 峰本さんも「そうですね」と笑顔で頷くと二人は昼食作りを再開した。

 その光景はさっきよりも親子感を感じることができたのは気のせいではないだろう。


☆☆☆

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