ハプニング連発!?
第5話 ハプニングpart1① 聖女様のお見舞い
ハプニングというのは突然訪れるものらしい。
新学期が始まって二日目の放課後。
朝読んでいた本を読み終えてしまったので、俺は図書室で本を借りて帰ることにした。
この休日に読む本を何冊か選んだ帰り、峰本さんと一階に降りる階段ですれ違った。その腕いっぱいに紙の束を持っていた。
そういえば、今朝、綾崎先生が国語の春休みの課題を集めるように言ってたな。
峰本さんが持っているのはおそらくそれだろう。
新学期早々、学級委員長は忙しいんだな、とそんな峰本さんを横見に俺は途中の踊り場まで降りた。しかし、すぐに引き返して峰本さんの後ろを追いかけた。
俺も左手に本を持っていたが、右手は自由だ。
少しくらいなら持ってあげることができる。
結局、俺は見捨てられないんだよな。そう自傷気味に苦笑いをすると、峰本さんに声をかけた。
「峰本さん。少し待つよ」
急に後ろから声をかけられて驚いたのか、峰本さんは「えっ!?」と振り返った。
その拍子に峰本さんは階段から足を踏み外し「あっ!」と俺に向かって落ちてくる。
咄嗟のことに混乱しつつも俺は峰本さんに怪我させないようにと覆い被さり、そのまま踊り場まで転げ落ちた。
「木村さん・・・・・・!」という峰本さんの声と「木村君!」という綾崎先生の声が聞こえてきたのだけど、それは幻聴だろうか・・・・・・。
地面に強く叩きつけられた俺は次第に意識がなくなっていった。
☆☆☆
気がついた時には、俺はベッドの上にいた。
「ここは・・・・・・」
「あ!気がつかれましたか」
俺の顔を覗き込むように女性の顔が目の前に現れた。
誰?この人・・・・・・。
その女性の顔に見覚えはなかったが、知っているような気もした。
もしかして・・・・・・。
「峰本さん?」
「はい。峰本です。よかった。記憶喪失にはなってないようですね」
峰本さんはいつもの特徴的なおさげも黒縁メガネもしていなかった。
おさげを解いたストレートヘア、眼鏡の奥に隠れていた綺麗な瞳。そこにいたのは学校での峰本さんとは別人の彼女だった。
本当に美人だったんだな・・・・・・。
それよりも、あの後どうなったのだろうか。たしかに階段から転げ落ちて・・・・・・。
「俺・・・・・・」
「木村さんは私を庇って階段から転げ落ちたんです。その際に頭を強く打って今まで気を失ってました」
「そっか・・・・・・痛っ!」
右手を動かそうとした時、腕に激痛が走った。
「あ、無理に動かしてはダメですよ。右手は骨折しているそうです」
「え・・・・・・」
「すみません。私のせいで・・・・・・」
峰本さんは今にも泣き出しそうな顔で俺に謝った。
「そんな顔しないでよ。それよりも、峰本さんは怪我してない?」
「え、あ、はい。私は大丈夫です」
「そっか。よかった」
「自分の心配より、私の心配をなさるんですね」
「そりゃあな、俺と峰本さんでは価値が違うからな。とにかく怪我がなくてよかったよ」
それに、俺のせいで峰本さんが怪我をしたなんて知られたら骨折では済まなかっただろうし。
右手が骨折した程度で済んだと思えば安いものだ。
まぁしばらくは不便な生活を送ることになるだろうがな。
「付き添ってくれてありがとね。もう、帰っても大丈夫だよ」
「そんなわけにはいきません。私の不注意で木村さんに骨折をさせてしまいました。なので、治るまで私にお世話をさせてもらえないですか?」
この子は一体何を言い出すんだろうか。
自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。
「そこまでしてもらわなくても大丈夫だから。俺、左手も一応使えるし」
「それでも不便なこともあるでしょう?」
「そりゃあ、多少はあるかもだけど、その辺は我慢すればいいし」
「我慢はダメです。とにかく、木村君の腕が治るまで私にお世話をさせてください」
絶対に譲りません、と言った感じの瞳で俺を見つめてくる峰本さん。
まいったな。
峰本さんも綾崎先生と同じで強引なタイプなのか?
「峰本さん。自分が何言ってるか理解してる?」
「はい。もちろんです」
「本当に?片腕の折れた俺のお世話をするってことは、一緒にお風呂に入ったりもするってことだよ?」
「はい。少し恥ずかしいですが頑張ります」
そこはもう少し戸惑ってほしかったんだがな。
なんなら、やっぱりやめますくらいは言ってほしかった。
しかし、峰本さんから返ってきた言葉は俺の思っていたのと反対の言葉だった。あまりにも真っ直ぐすぎる峰本さんに、逆に俺が戸惑うことになった。
「そ、その決意は変わらないの?」
「変わりません」
その決意は本当に固そうだった。
どうやら俺が折れるしかないらしい。
「本当にそこまでしてもらう義理はないんだけどな。もとはといえば、俺が急に声をかけたのが悪いんだし」
「木村君が了承してくれるまで私はここを動きませんからね」
「分かったよ。迷惑かけるだろうけど、右腕が治るまでお願いしてもいいですか?」
「もちろんです。では、明日から木村君の家にお邪魔することにしますね。今日は様子を見て入院することになると思いますので」
そう言って立ち上がって病室から出て行こうとしていた峰本さんの背中に最後に一つだけ確認することにした。
「最後に一つ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「もしかして、治るまで俺の家に住み込むなんて言わないよな?」
「もちろん。そのつもりですけど、何か問題でもありますか?」
峰本さんは、それが当然でしょう、と首をかしげながら俺を見つめてくる。
問題だらけなんだが、それを指摘したところで峰本さんが決意を変えることはないだろう。
「分かった。じゃあ、また明日な」
「はい。また明日。ゆっくりと休んでくださいね」
俺に優しく微笑みかけた峰本さんは病室から出て行った。
峰本さんがいなくなった後、俺は窓の外を見た。
空はすっかりと暗くなり、今日も綺麗に満月が浮かんでいた。
☆☆☆
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