第3話 実はお隣さん!?

 特にこれといって会話をすることもなく、俺が一人暮らしをしているマンションに到着した。


「それじゃあ、俺はこれで」


 今度こそ帰れると思ったら、またしても声をかけられた。


「ねぇ、木村君の家ってここなの?」

「そうですど・・・・・・」

「私もここに住んでるんだけど」

「え?」


 さすがにそれには驚かずにはいられなかった。

 何この展開・・・・・・。

 そういえば、数日前に隣に引っ越してきた人がいたような。

 まさかな・・・・・・。


「ち、ちなみに何階ですか?」

「7階だよ」

「・・・・・・もしかして最近引っ越してきました?」

「そうね。つい、数日前に引っ越して来たばかり」

「・・・・・・マジかよ」


 どうやら、綾崎先生は俺のお隣さんになったらしい。

 数日前に・・・・・・。 

 こんな小説みたいな展開ってありかよ。

 

「ねぇ、木村君は何階なの?」

「・・・・・・僕も七階です」


 あまりにも唐突な展開すぎて、一人称が『僕』に戻ってしまった。

 学校では極力『俺』と言うようにしてるのに。

 しかし、綾崎先生には聞こえなかったみたいだ。そんなことよりも綾崎先生には気になることがあるようだ。


「もしかして、お隣さんだったりする?」

「みたいですね」

「えっ!本当に!?」

「おそらく・・・・・・」

 

 七階に上がってみれば自ずと答えは出るだろう。


「ねぇ、早く上がろうよ!」


 綾崎先生は俺の腕を引っ張りエレベーターのとこまで連れて行くとボタンを連打した。

 その顔はまるで隠されていた宝物を見つけたかのようにキラキラと輝いていた。

 

 エレベーターが一階に到着して、俺たちは一緒に乗り込んだ。

 七階のボタンを押して到着するのを待つ。

 チンッという音と共にエレベーターの扉が開き、七階のフロアに降りた。 

 その足で、自分の家へと向かう。そんな俺の隣にべったりとくっついて綾崎先生も自分の家へと向かっていた。

 そして、自分の家の扉の前に到着した。


「ここが俺の家です」

「こっちが私の家」


 やはり、俺たちはお隣さん同士だったらしい。


「なんで今まで気がつかなかったんだろう!」

  

 それは俺も不思議だったが、よく考えれば当然のことなのかもしれない。

 朝は早めに学校に登校するし、平日の夜は塾で遅くまで家に帰らない。休日はほとんど家から出ることはないから、会わなかったのだろう。

 

「こんなことならお隣さん挨拶を後回しにせずにやっとけばよかった!そしたら、もっと早くにこの事実を知れたのに!」

 

 綾崎先生がお隣さんだったことはもう変え難い事実なので諦めるしかない。

 しかし、これ以上この人と関わりを持つのは危険だ。綾崎先生は距離感が近すぎる。エレベーターを降りてからここに来るまでも、ずっと俺の腕を掴んで離れくれなかったし、天然なのか腕にずっと幸せな感触があったし。

 とにかく、これ以上一緒にいるのはマズイ・・・・・・。


「そうですね。では俺はこれで失礼しますね」

「うん。おやすみ!また明日ね!」

「おやすみなさい」


 ようやく解放された俺は家に入るとすぐにベッドに横になった。

 今日はもの凄く疲れた1日だった。 

 これから先もこんなことが続くのだろうか。

 綾崎先生が隣のいえなのは完全に予想外だ。誰にも知られないようにしないと。

 残り一年間の平穏な学校生活が脅かされかねない。

 そんなことを考えていたら、お風呂に入ることも忘れて制服姿のまま、俺は眠りについてしまった。

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