第2話 公園で待ち伏せ

 放課後。

 昨日と同じく塾に通って、いつものようにあの公園を通って家へを帰っているところだった。

 現在時刻は午後二十三時。

 

「なんでここに・・・・・・」


 例のベンチに綾崎先生が座っていた。

 もしかして待ち伏せされてた・・・・・・。

 なんのために?

 綾崎先生と目が合う。すると、綾崎先生は嬉しそうに笑って俺の方に駆け寄ってきた。


「やっと来た!遅いよ!いつもこんな時間なの?」


 綾崎先生は腕時計を見て現在時刻を確認していた。


「そうですね。だいたいいつもこの時間です。あの、なんでここにいるんですか?」

「木村君を待ってたから」

「・・・・・・待ち伏せ」

「待ち伏せじゃないから!ちゃんと用があって来たんだから!」

「待ち伏せと変わらないと思うんですけど・・・・・・」

「そんなのどっちでもいいじゃない!とりあえず座らない?」


 そう言って綾崎先生は俺の腕を掴んでベンチに座らせた。


「お昼はあんまりお話ができなかったからね。ここにいれば会えるかと思って」

「やっぱり、待ち伏せじゃないですか。てか、何時間待ってたんですか?」

「う〜ん。三時間以上は待ってたかな。そのおかげで本が一冊読めたよ」

 

 カバンから文庫本を取り出して、無邪気に笑う綾崎先生。

 三時間以上も待つとか、この人は何がしたいんだよ。しかもこんな街灯も少ない公園で女性が一人とか危なすぎるだろ。


「俺のことなんて待ってなくて帰ればよかったじゃないですか」

「帰ろうかとも思ったんだけどね。やっぱり今日ちゃんと話したいなって思って」

「何の話ですか?もう、お礼はちゃんと言ってもらいましたし、これ以上話すことないと思うんですけど・・・・・・」

「冷たいな〜。それって、わざと?」



 綾崎先生にそう言われて、心臓がドキッと跳ねた。

 まさか、知ってるのか・・・・・・。

 いや、そんなはずはない。この人は今日赴任して来たばかりなんだ。そんなことがあるはずがない。

 

「な、なんのことですか?」

「ううん。私の勘違いかな。ごめん」

「そ、そんなことより話したいことの内容を教えてください」


 話を変えたくて、俺は早口でそう言った。


「あ、そうだったね。木村君。改めて、私にお礼をさせてほしいの」

「お礼・・・・・・ですか?」

「そう!お礼!」

「そんなのいいですよ。俺は大したことしてませんから」

「それじゃあ、私の気がすまないの!助けてもらったのにお礼を返さないなんて、なんか気持ち悪いじゃない」


 そういうものなんだろうか。

 お礼をしてもらうほどのことをしたつもりはこれっぽちもないいんだけどな。

 了承するまで、引かなそうだし・・・・・・。

 どうするかな?


「私にできることならなんでもするから」

「なんでも・・・・・・ですか?」

「うん!あ、でも変なことはダメだよ?一応、私たち教師と生徒だし!」


 俺に何を言われると思ったのか、綾崎先生は慌てたように言った。

 思春期の男が考えることなんて一つしかないよな。

 もちろん、そんなことは頼まないけど。


「じゃあ、その権利がお礼ってことでいいですか?」

「えっ?」

「いつか助けてもらいたいと思った時に俺のことを助けてください」

「そんなことでいいの?」

「はい。それで十分です」


 そんな日が来るとは思えないが・・・・・・。 

 もしもの時に先生に助けてもらえるというのは心強かったりするからな。


「分かった。木村君が困っていたらしっかりと助けるね」

「よろしくお願いします。じゃあ、俺はこれで」


 俺は綾崎先生に頭を下げて公園を後にしようとする。


「ちょ、ちょっと待って。木村君の家ってそっちなの?」

「そうですけど・・・・・・」

「私もそっちだから途中までいっしょに帰ってもいい?」

「それって先生としてどうなんですか?」

「大丈夫よ。こんな時間だし、この辺はあまり人がいないでしょ。だから、大丈夫。誰にも見られないわ!」


 何を根拠に言っているのか分からないが、家が同じ方向なら誰かに見られたとしても家が同じ方角と誤魔化せばいいか。


「分かりました。そのかわり、少し距離をあけてくださいね」

「分かったわ」


 俺が歩き始めると綾崎先生も歩き始めた。

 少し距離をあけるっていうのは横にじゃなくて後ろにって意味だったんだけどな。

 綾崎先生は俺の横、少し距離をとったところを歩いていた。


☆☆☆

 

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