運命の出会いと青春の始まり

第1話 運命の再会と青春の始まり

綾崎美紀あやさきみきです。私が皆さんの担任になります。受験という人生で大事な時期を全力でサポートできるように頑張るので、これから一年間よろしくお願いします」


 新学期が始まりクラスメイトも担任も入れ替わった。

 綾崎美紀と言ったその教師は本日から『峯ヶ丘高校』に赴任してきた教師だった。

 そのルックスの良さとスタイルの良さで、就任式でステージの上で挨拶をしていた時も、今と同じように黄色い歓声を浴びていた。

 おそらく、就任式でその姿を見た時から、ほとんどの男子生徒が綾崎先生が担任になること望んでいただろう。

 ステージに立っている時はあまり見えなかったが、いざこうして見ると黄色い歓声が上がったのも頷ける。

 その顔は女優顔負けなくらい整っていて美しかった。

 というか、物凄い既視感があるんだが、もしかしてあの時のあの人だろうか・・・・・・。

 

「はいはい、皆さん〜。落ち着いてください。これで、朝のホームルームは終わります〜」


 綾崎先生はそう言うと教室から出ていった。

 その際に一瞬だけ目が合ったような気がするのだが、気のせいだろうか。

 

『綾崎先生可愛すぎない!?』

『これで勝ち組だ〜!受験勉強頑張れる!』

『このクラスに女神様が降臨したぞ〜!』


 早速、綾崎先生を『女神様』と崇め出すクラスメイトたち。

 このクラス大丈夫か?

 俺はそんなクラスメイトたちを見て少しだけ心配になった。

 

☆☆☆


 そして、昼休憩になり、俺は美術準備室に移動した。

 去年から俺は諸事情により、美術準備室でご飯を食べさせもらっている。

 もちろん先生からの許可は得ている。

 

「それにしても、まさか教師だったとは・・・・・・」


 綾崎先生は俺のことを覚えてないだろうけど、なんという偶然だろうか。

 こんなことってあるんだな・・・・・・。

 まぁ、どうでもいいけど。

 俺は自分で作った卵焼きを口に運んだ。


「うん。今日もいい味付け」


 自分で作った卵焼きに満足していると美術準備室の扉がノックされた。

 誰だろう?

 荒牧先生か・・・・・・。

 俺がここでご飯を食べているのを知っているのは美術教師の荒牧楓先生くらいなものだ。

 後はあいつか・・・・・・。

 いろんな可能性を考えたが扉の向こうから聞こえてきた声はどの可能性とも違うものだった。


「木村君。ここにいるって聞いてきたんだけど、いますか?綾崎です」

「あ、綾崎先生・・・・・・?」

「あ、やっぱりここにいたんですね。中に入ってもいいですか?」

「ちょ、ちょっと待ってください・・・・・・」


 綾崎先生の突然の訪問に俺は驚きを隠せないでいた。しかもさっき、綾崎先生のことを思っていたから余計に・・・・・・。

 なぜ、ここに来たのか?

 誰からこの場所のことを聞いたのか?

 いくつかの疑問が頭に浮かんだが、一番気になるのは、綾崎先生が俺のことを覚えていたのかどうかってことだ。

 とりあえず、弁当をテーブルに置いて扉を開けに行った。


「今開けますね」と美術準備室の扉を開けると、そこには本当に綾崎先生が立っていた。

 

「美人・・・・・・」


 綾崎先生の顔を見て俺は思わずそう呟いてしまった。


「中、入ってもいいかな?」

「あ・・・・・・はい」


 俺の呟きを華麗にスルーした綾崎先生は美術準備室の中に入った。

 余っていた椅子を持ち出して、さっきまで俺が座っていた場所の隣に置いて座った。


「早速なんだけど、私たち会ったことあるよね?」

「え・・・・・・」

「え、もしかして覚えてない?ほら、先月、公園で・・・・・・」


 どうやら綾崎先生はあの時のことを覚えていたらしい。

 どうしたものか・・・・・・。

 素直に白状するか、人違いだと誤魔化すか。

 あの時かなり酔っ払ってると思って名前を言ったのはまずかったか。


「あれ?私の勘違いかな?」

「そ、そうなんじゃないですか?」

「たしか、『嶺ヶ丘高校』の制服を着てて、木村輝明君って名前だったような気がするんだけど・・・・・・」


 まさか、そこまで覚えているとは。

 これはもう隠し通せるような状況じゃないな。


「すみません。俺です」

「あ、やっぱりそうだったんだ!うろ覚えだったけど、やっぱりあれは木村君だったんだ!」


 うる覚えだったんかい!?

 それなら誤魔化せたかも・・・・・・。

 まあ、もう後の祭りなんだけど。 


「あの時は変なところを見せちゃってごめんね」

「別にいいですよ・・・・・・」

「それとありがとうね。あの時の木村君の言葉があったから、私は今も生きてるよ」

「それは、大袈裟じゃないですか?俺は大した言葉をかけてはないですよ」

「ううん。本当にそれくらい感謝してるの。だから、本当にありがとう」


 そう言って綾崎先生は俺に頭を下げた。

 本当にそこまでしてもらわなくてもいいんだけどな。むしろ、綾崎先生に頭を下げさせていることに申し訳なさを感じる。


「ところで、木村君は毎日ここでお弁当を食べてるんだってね」

「まぁ、そうですね」

「明日から私もここで食べていい?」

「は?」


 何を言い出してるんだこの人は・・・・・・。

 それは俺の事情を知ってのことなのか、それともただの興味本意か。

 どっちにしてもあまりいい提案とは言えないな。


「いや、それはちょっと・・・・・・」

「そっか。ダメか〜」

  

 露骨に悲しそうな顔をする綾崎先生。

 申し訳ないけど、そんな悲しそうな顔をされても無理なものは無理なのだ。

 今はこうして何とか話すことができているが、きっと綾崎先生も他の人たちと同じように俺に失望していく。

 それなら、いっそ初めから深く関わらない方がいい。それがお互いのためになる。


「はい。すみません」

「分かったわ」


 そう呟くと綾崎先生は立ち上がって「お昼、邪魔して悪かったわね」と美術準備室から出ていった。

 最後まで、綾崎先生の顔から悲しさが消えることはなかった。

 綾崎先生が出た後、俺は弁当の残りを食べるために椅子に座った。


「悪いことをしたかな・・・・・・」


 綾崎先生の悲しそうな顔が頭から離れなかった。

 いや、これでいい。これでいいんだ・・・・・・。

 俺はそう思いながら弁当を完食した。


☆☆☆


 弁当を食べ終え、教室に戻って自分の席に座ると俺は机に伏せた。

 誰とも接しなくていいように俺はいつもそうしている。

 しかし、何だろう。今日は視線をものすごく感じる・・・・・・。

 いつもは俺を気にかけるやつはあいつくらいなものなのに。


「よう正輝!お前、人気者だな!」

「うっせぇ。てかなんで、俺はこんなに視線を浴びてるんだ?」

「それはだな。あの『女神様』がお前のことを探しに教室にやってきたからだな。正輝、あの『女神様』とはどんな関係なんだ?」

「少し顔見知りなだけだ。それ以外の関係性はない」

 

 嘘はついていない。

 一回だけ会ったことがあるだけの顔見知り。

 何を疑われているのか知らないが、それ以上の関係は何もない。


「正輝がそう言うならそうなんだろうけど、僕以外の生徒は信じないだろうね〜」


 楽しそうに笑いやがって。

 こいつの名前は神崎流唯かんざきるい。なぜか分からないが、去年から頼んでもないのに流唯は俺に話しかけてくる。

 正直少しだけ鬱陶しい。


「新学期早々大変だね〜」

「他人事だと思って」

「僕がどうにかしようか?」

「できるのか?」

「まぁ、できないことはないよ〜」


 両手を頭の後ろに組んでにこやかに笑いながら流唯は言った。


「なら、お願いしたい」

「しょうがない。正輝のために僕が人肌脱ぐとしよう!」


 任せてと胸を叩くと流唯はクラスメイトたちの元へと向かっていた。

 なぜ、流唯が俺のためにそこまでしてくれるのか分からないが、助けてくれるというので、その言葉に甘えることにした。

 それから数分後、昼休憩が終わる頃には俺に向ける視線は無くなっていた。


☆☆☆

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