村
そのあと、森の中に入った。
森に落ちていた布を使ってなんとか紫音の傷口を塞いだ。
でもこれじゃダメだと思った。このままだと、紫音は二度と歩けなくなる。だからといって、誰かに言うのも無理だ。施設に戻されたりしたら逃げてきた意味がない。
「どうしよう……」
紫音はとても苦しそうだった。
「とにかく、拠点を作ろう。璃杏、頼める?」
木葉留がそう言った。
そして俺は能力ををかなり使って、小さな小屋を作った。その中に紫音を避難させ、休ませることにした。
食べるものはその辺の木から木の実を取ったりした。
紫音には薬草の知識もあり、紫音の知識を頼りに、薬草を取りに行ったりもした。
脱出してから何日たったのかもわからないくらいの時が経った。そのころ、誰かがこの小屋を訪ねてきた。
「はい……」
俺はドアから少し顔を出して、その訪ねて来た人を見た。大人の男性だった。
「あの……ここで、何されてるんですか?」
「えっと……」
この人が施設の関係者だったらどうしよう……
「あ、私、すぐそこの村に住んでいる原田といいます」
「俺は……璃杏です。ここに、住んでます」
とにかく自己紹介をした。どうやら、関係者では無いようだった。
「子供だけ……ですか?」
「はい。両親が死んで、今は自分たちだけです」
とりあえず噓をつく。本当の事なんて言えるはずがない。
「そうですか、何か、困ってることとかありますか? 村のみんなで助けますよ」
俺は少し悩んだ。
確かに紫音のことで助けてほしい気持ちはある。でも、初対面の人に話すのか? 何でこんな傷ができたのか、それも聞かれるに違いない。そこで上手く誤魔化せるかはわからない……
「ちょっと聞いてきますね。兄ちゃんたちに」
とっさにそう言った。兄ちゃんなんていないけど、どうしよう……
とにかく俺は木葉留と相談した。あと、木葉留が兄ちゃんってことにしてあることも。
そして木葉留がその原田という人物と話をした。
「今、姉が、怪我をしていて……薬草でどうにかしてるんですけど……治らないし……」
「そういうことでしたら、村の医者を紹介しますよ、お金も出しますし……」
そうか、お金……お金なんてもってないし、出してもらう訳にも……
そしてその流れで、紫音は近くの村の医者に診てもらうことになった。
「よく持ってますね……」とその医者は言った。
薬草でこれだけ長い期間死なずにいるのはすごいらしかった。
そして紫音は傷口を塞いでもらって、数日安静にすることを言われた。
案外村の人たちは優しくて、肉や魚をもらったりした。心配もしてもらった。
この世界は意外と優しいのかもしれない。俺はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます