手紙

 あれから、数日、いや数週間が経過していた。

 あの後何度か案内板を確認しに行って、一番最初に見た情報が正しいのを確認した。


 いつバレるかわからないから、メモは残せない。記憶するしかない。それはそれで、結構大変だった。



 もう一つわかったことがあった。

 他にあった2つの部屋に人がいること。

 そして、その人たちは子供だったこと。

 それが木葉留の能力でわかった。



 ◇◇◇



「ふぁーあ」

「ん……おはよう、璃杏」

「おはよう、木葉留。今日早くない?」

「璃杏が遅いだけだよ」


 俺は時計を見た。


「あ、ほんとだ」

「さっさと着替えよ、はい」


 木葉留は俺の服を取り出して投げた。


「ありがと」



 ◇◇◇



「おはよー」「おはよう、紫音」

「おはよう。木葉留、璃杏」


 大部屋に行くと、紫音がもういた。それに朝ごはんが机に並べられていた。

 ちょっと遅く起きるの、結構いいかも。と思ってしまった。

 職員と顔合わせるのはなんか嫌。今度からそうしよ。とも。



 そしてご飯を食べ終え、職員が片付けていったあと、俺たちはこの施設について調べるのを再開した。



「ねえねえ」


 今後どうするかを考えていた時、木葉留がそう話しかけてきた。


「どうしたの?」

「なんかさ、この下になんかあるんだよね」

「え?」


 木葉留が指さしたところはごく普通の床だった。普段はカーペットで隠れているところだけど。


 紫音がその上でジャンプをしてみた。するとほかの所よりも軽い音がした。


「なんか……ありそうだね。紫音の感覚的には?」

「僕の感覚的には軽いっていうか……いかにもなにかありそうな感じっていうか……」

「やっぱあるでしょ?」

「でも、どうやって出すの?」

「うーん……」


 そして俺はちょっとその床を叩いてみようとして、床を触ると、その床に穴が開いた。すごく綺麗に。


「え……」

「璃杏……?」

「いや……俺も……わからない……」


 穴の中には破片らしきものは落ちていなかった。意味がわからない。


 そして、その穴の中には長方形の箱が入っていた。正確には穴じゃなくて、床下の空間に。


 俺はその箱を取り上げる。


「開けてみる?」

「うん」


 その箱を開けてみると、その中には、紙がいくつか入っていた。


 どうやら手紙か何かのようで、その中の一つを開いて読んでみる。



 この手紙を読んでいる君へ

 この手紙を読んでいるということは、君、もしくは君の仲間に私の弟がいるということでいいのかな?

 まあ、どちらにせよ、君たちには伝えないといけないことがある。

 ここにいるのは危険だ。

 この施設は異能力を研究するところだ。そのために、異能力を持つ人たちに強制的妊娠させ、どんな配合ならどんな異能力を持つかや、他にも科学的・医学的な研究が行われている。人体実験というやつだ。

 いつか君たちの誰かが死ぬ。もう死んでるかもしれない。

 とにかく、12歳になる前にここから逃げてくれ。逃げる方法はその箱に入っている。頼んだ。

  紫樹


 と書いてあった。


「なんだこれ……」


 情報量が多すぎてわけわかんない。



「まとめると……」


 紫音がまとめた内容はこうだった。


 ・この施設は人体実験を行っていて、日々子供が死んでいる。

 ・この手紙を書いた人は昔ここに住んでいた。

 ・その人はこの中の誰かの兄か姉かもしれない。

 ・その名前は『紫樹』


「おお……わかりやすい……」

「さすが紫音……」


 そして次の紙を取り出す。


 そこには脱出のルート、そして準備しないといけないことなどが書かれていた。


「やっぱ能力の線は合ってたし、あの紙で調べるしかないんだ……」

「そうだね……」


 木葉留と紫音はその紙を見ながらそう話している。


「それでさ、なんだったの? 璃杏の能力」

「わかんない。急に空いたんだ、穴が……」

「でも、急に来るのはほんとだよ。きっかけもなく」

「じゃあ、僕も来るかな? もうすぐ」

「絶対言っちゃだめだよ? 実験台にされるのはやだ」

「わかってる」


 恐らく毎回毎回、変わったことがないかしか聞かないのはそれだ。あいつらは異能力が開花することにしか興味がない。

 多分あの紙には出るであろう異能力が書かれているのだろう。


 俺たちはただの実験台。人としても見られていない。

 前に本で読んだ人権だなんて、ここには存在しない。


「……逃げないと、殺される」


「そうだね」


 俺の呟きに木葉留がそう答えた。



「ねえ、ちょっと気になったんだけどさ」


 紫音がそう言った。


「これってなんだろ」


 そう言って紫音は手首に付いているブレスレットを見せた。

 そのブレスレットは俺たちにもついていて、紫音は紫、木葉留は赤、俺は青色の宝石らしきものが付いている。


「確かに……色違うのにも意味があるのかも」

「色かぁ……なんか心当たりは?」

「紫音は名前の漢字に紫って入ってるじゃん」

「まあ、僕はそうだけど……二人は違うじゃん」


「うーん……他になんかわかんないこととかない? もしかしたら、それに結びついてるのかも」


「あ、誕生日……じゃない? 正確にはわからない、それに、わからないと困る」


 木葉留の問いに紫音が答えた。


「確かに。12歳までにって、手紙に書いてあったよな? それで、次12歳だよな? 翠夏はそれで死んだってことかなのか?」

「璃杏、質問多すぎ。次は12歳。多分、翠夏はそのリミットで死んだと思う。僕たちにも、そう遠くない未来だとも思う」


 紫音は冷静にそう答えた。


「誕生日……色……宝石……誕生日……色……宝石……」


 木葉留がそう呟く。


「あ、誕生石、とか?」


 紫音がそう言った。


「誕生石?」

「それぞれの誕生月には誕生石っていうのがあって……」


 紫音はタブレットで調べ始める。


「今、7月じゃん?」

「うん」

「その中で、赤が7月、1月、3月。青が9月、10月、12月、3月。紫が12月、2月。それで……」


 紫音は少し考える。1分くらい経ったところで、紫音がまた話し始めた。


「多分、木葉留は1月。璃杏は12月。僕は2月」

「なんで?」

「12月はラピスラズリ。別名が瑠璃。瑠璃の璃は璃杏の璃。」

「なるほど……」


「2月はアメジスト。別名、紫水晶。まあ、名前は文字通り」

「ふぅん……」


「1月はガーネット。赤色。別名、柘榴ざくろ石。柘榴っていう漢字の二文字目の、榴。分解すると木と留っていう漢字になる。その間に葉を挟むと、木葉留になる」

「確かに……」


 紫音は紙に書きながらそう説明した。


 もし仮にそうなら、俺が一番最初に被害に遭う。だから、12月までに脱出しなきゃいけない。それまでに能力を把握して、準備をする必要がある。

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