調査
俺たちはその日から翠夏失踪&死亡事件について調べ始めた。
まずはこの建物の構造から調べることにした。
部屋の前には廊下がある。左右は突き当りになっていて、その先は未知の領域だった。
とりあえず俺たちはエリアの中からその曲がり角の先を覗いてみた。
「うわぁ……」
思わずそう呟いてしまった。
俺にとってこのエリアの外を見たのは初めてだったから、普通に驚いた。
「何驚いてんの? 何も変わらないじゃん。同じじゃん」
紫音にそう言われてしまう。
「いやだって、初めて見たんだよ? エリアの外」
「感想は後で聞くから。とにかくこのフロア調べるよ」
「うん」
その時、逆の廊下を調べていた木葉留が俺たちに駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「同じだった。全く」
「そっか」
逆の廊下も同じようなつくりだったらしい。違ったら違ったで少し気持ち悪い。揃えるのは当然のことか。
「じゃあ、行こっか」
紫音がそう言い、俺たちは人生で初めてエリアから出た。
足音を殺して、ひっそりと移動する。すごくドキドキして、心臓が飛び出しそうだった。
角を曲がった先は本当にに俺たちのところと変わらない感じだった。でも、部屋のドアに記号が書いてあった。俺たちの部屋のドアにも多分あるものだと思うけど、ここの模様は
そしてその先も角になっていてその曲がり角からチラッと顔を出す。すると、そこにはエレベーターと思われるものと、階段と思われるものがあった。どちらも実際に見たことはないから、本当にそれかどうかはわからない。
人の気配が全くなかったので、その辺を調べてみる。
そこには案内板と書いてあるものが壁にかけられていて、
100 聖堂
81-99 実験エリア
61-80 医療エリア
11-60 居住エリア
1-9 警備エリア
と書かれていた。ついでに地図と思われるものも書いてあった。
「なにこれ」
「紫音もわかんないのか」
「うわぁ……なんだこりゃ」
紫音は俺たちの中で恐らく一番頭がいい。そんな紫音でもわからないものが俺たちにわかるわけがない。
そして俺たちはその先の曲がり角を曲がった。このフロアは曲がり角が多いみたいだった。
今度は俺たちの部屋の前と変わらない風景だった。
ドアの模様は
そして次の曲がり角を曲がると、また同じ景色があった。
そこにはさっき出る前に木葉留が置いたハンカチの鶴が置いてあった。
「これって……?」
「さっき俺が置いたやつだ」
「じゃあここが俺たちの部屋……」
「一周してきたってことだな……」
俺たちは部屋に戻り、ドキドキの初探検は無事に終わった。
「じゃあ、情報をまとめよう」
紫音がそう言った。
この部屋には監視するものは存在しない。それは確認済みだったから、安心してこの話ができる。
「廊下とかにもカメラとかそういうのはなかったね」
「そうだな……少なくとも俺は見つけられなかった」
「僕も。というか、静かだった。不気味なくらい」
「確かに。誰もいないのかな」
「俺たち以外に人がいるとは思えないけど、わかんないな」
「ちょ、」
木葉留がドアの方を見てそう言った。
「どうした? 木葉留」
「え、いや、」
「なんもいないけど……」
その時ドアがノックされ、職員が入ってきた。
「まだご飯の時間じゃないですけど……」
「今日は健康診断をしようかと」
「そうですか」
「夏の前なので」
そう言って職員は書類を取り出した。健康診断はそんなに珍しいことでもない。春の前、夏の前、秋の前、冬の前、にそれぞれ行われる。急に来るからびっくりするときもあったが、今はそこまででもない。
「まずは……璃杏」
俺は名前を呼ばれて職員の前に立つ。
「なんか変わったことはない? 不思議なこととか」
「そんなん無いっす」
「そう。じゃあいいわ」
あっさり終わった。確かいつもこんなもんだった。だから驚くことでもない。
「次、木葉留」
木葉留、紫音も同じような質問をされ、同じように答える。
そして職員は部屋から出ていった。
「聞こえてなかったかな……」
「木葉留が止めてくれたからだよ。でも、なんでわかったの?」
「そのことはあとででいい? とりあえず、さっきの話しよう」
「そうだな」
気になるけど、さっきの情報をまとめる方が先か。
「他は……案内板かな?」
「あと、ドアの模様」
「模様?」
「ああ。部屋がここ含めて3つあっただろ? そこのドアにある模様が一つ一つ違った」
「何のために?」
「部屋を識別するためだろ。多分」
「じゃあ次、案内板、なんて書いてあったっけ」
「多分だけど、100階が聖堂で、81-99階が実験エリア、61-80階が医療エリア、11-60階が居住エリア、そして1-9階が警備エリアって書いてあったと思う」
「さすが紫音」
「100階まであるんだね……」
「確かに」
「多分ここは11階から60階のどこかだね」
「うん……どこかわかんないけど」
「広すぎるよなぁ……」
「うーん……」
そこで会話は終わった。
「あ、それで、木葉留、さっきの、なんでわかったの? っていうやつ」
「ああ……」
木葉留は改まって話し始めた。
「璃杏さ、今日、青いシャツ着てるでしょ」
木葉留はそう聞いてきた。確かに今日着てるシャツは青だけど……
「う、うん……でも、なんで? 今日木葉留の方が遅く起きてたよね?」
「うん。これが、なんかできるようになったの」
「過去を見ることが?」
「違う。隠れてるものが見える。多分。だから、さっきドアの向こうにいた人が見えたんだと思う」
「へぇ……」
「でも、なんでそんな力が? 木葉留、なんか心当たりとか、ないの?」
「うーん……別に変なもの食べてないし……仮に食べてても、紫音と璃杏も同じもの食べてるし……」
食べ物ごときで変わるとは思えない。
「いつから見えるの?」
「ついさっき。あの、ドアのとき。急になったから、そこにいるのかと思ったけど」
「そっか……もうちょっと早かったらなー、隣誰いるかわかったのに」
「確かに、そうだね。でも、知らないほうがいいかもよ」
「まあ、そっか」
「さっきのさ、健康診断の時の紙になんか書いてなかったの?」
「うーん……」
「そういえば、なんだったかわかんないけど、なんか書いてあった」
「なんて?」
「漢字読めないし」
「じゃあ……」
紫音は辞書を取り出してどこかのページを開いて、木葉留に見せた。
「これ?」
「……あー、多分これ」
「どれ?」
「これ」
「なんて読むの?」
「璃杏辞書使えないの? さすがにやばいよ? それ」
「で?」
「
「とーし……へぇ……」
「それで、他のは見えなかった?」
「ごめん」
「そっか。でも、またあるよねこれ」
「うん」
「じゃあそのときに」
「わかった」
そのとき、木葉留が職員が来るのが見えたと言った。だからそこで話は終わった。
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