誰かのために生まれて、誰かのために死ぬ。

月影澪央

失踪

 俺たちは生まれた日から、ずっと一緒。

 今までも、これからも。

 そう思ってた。


 その日々は、一瞬にして崩れ去った。



 ◇◇◇



「え……? 戻ってこないって……? どういうこと?」


 ここにいる子供の中の唯一の女子、紫音しおんがこの施設の担当職員にそう聞いた。


「とにかくそういうことだ」


 そう言ってその職員は出て行ってしまった。


 俺たちはこの施設で生まれて、この施設で育ってきた。生まれた日も一緒らしい。


 璃杏りあん紫音しおん木葉留こはる翠夏すいか、俺たち4人は、ついこの前まで、ずっと一緒にいた。


 それが数日前、翠夏が急にいなくなった。

 紫音によれば、朝起きたらいなかったらしい。


 俺たちはもともと行動範囲が限られていてその範囲の外に出たことがない。だから、探しに行けなかった。

 施設の人が探したみたいだけどいなかったらしい。


 そして今日、翠夏が死んだことが俺たちに知らされた。


「何があったか、何も知らされずに死を受け入れろって……そんなの……」


 木葉留がそう言った。


 それはそうだ。この施設、この施設の一部分の中が俺たちの世界の全てだった。そんな中でもこれは理不尽だと思う。


 昔の俺たちだったら職員の言うことが全てで、それに従っていたかもしれなかった。でも今は自分で判断もできるし、自我もある。さすがにこれには従えない。


「ねえ璃杏、木葉留、」

「ん?」「どうしたの? 紫音」

「このこと、調べない? 翠夏に何があったのか」

「え?」

「だってさ、さすがにこんなことがあってさ、何もないんだよ? あっちだってわかってるでしょ? 僕たちが約12年、ずっと一緒だったってことくらい。それなのに、何も言われない。絶対何かあるんだって。教えてくれないなら、自分たちで調べるしかないじゃん?」

「……でも……どうやって?」

「エリアから出たらどうなるか、わかってるだろ? もう二度とやりたくない」

「それもそうだけど……行動を起こさないと、変わらないし……」

「そう簡単じゃないってことは、わかってるよね? 紫音」

「うん」

「そういう覚悟があるってことだよな」

「うん。危険を起こしてでも、調べたい、調べないといけないことだと思う」

「紫音がやる気なら、俺はやる。木葉留はどうする?」

「2人がやるなら、俺もやる。仲間外れは、嫌だし」



 そして俺たちはこのことについて調べることになった。


 俺たちの行動範囲はこの部屋とそこに付属している寝室、あとはこの部屋の前の廊下と廊下を挟んだ向こう側にある水回りが集められた部屋、それくらいだった。


 ご飯は職員が決まった時間に運んでくる。他に本とか娯楽類は部屋にあるタブレットで職員に注文する。タブレットはインターネットに接続もできる。大抵のことは本かタブレットで知ることができていた。


 だが今回のことは、本でもタブレットでも調べることのできないことなのだと分かっていた。



 ――でも、この決断によって、あんなことになるなんて、この時は思ってもなかった。

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