第17話 玲香・親友の告白

「おはよー!」


爽やかな朝の空気を吸い込んで、勢いよく教室のドアを開ける。

今日もいい天気だ。


「あ、玲香!おはよう」


沙月が駆け寄ってきた。

今日もきれいにまとめたポニーテールが揺れている。


「入部届のハンコ、もらってきた?」

「うん!昨日もらったよ」

「よかった。一緒に出しに行かない?」

「うーん…」


音咲の印。

沙月には見られたくない。

兄弟であることは三人だけの秘密にしようと決めている。


「私は一人で出しに行こうかな」

「えぇー、なんで?」

「なんとなく。ごめんね」


席に鞄を下ろす。

ちらりと後ろを見ると、るき兄が暇そうに空を見ていた。


「で、沙月は何部に入るんだっけ?」

「言わなかった?吹奏楽部だよ」

「あら、一緒だね」


部活といえば、昨日三人で部活について話していたけど、結局二人はどこに入るんだろう。


「ねぇ、るきー」

「何?」

「るきはどこの部活入るの?」

「僕は、美術部に」


美術部かぁ。

なんかすごいな。

るき兄はどんな絵を描くんだろう。

見てみたい。


そんなことを考えていたら、気のせいか沙月が尖がった声で私に話しかけてきた。


「玲香って山中君と仲良いよねー」

「え?そうかな」

「山中君とどういう関係?」


沙月が身を乗り出す。

るき兄の後ろの席に座っているリズ姉も興味津々でちらちらこっちを見てくる。

やめてよ。兄弟なのに。


「何想像してんの?別に普通の友達だよ?」

「うっそぉ」

「ほんとだって」

「そうならいいんだけど」

「…いいって?なんで?」


沙月は恥ずかしそうに下を向いた。


「あのね、実は私…」


耳貸して、と沙月が私に顔を近づける。

少し躊躇いながら沙月は私に囁いた。


「実は私、山中君のこと好きなんだ」

「えぇぇぇぇええ?!」


衝撃の事実と恋という話題に顔が赤くなる。

沙月が…るき兄を好きなのか。

たしかにイケメンだし優しいし頼りがいがあるし、妹から見てもるき兄は魅力的だ。誇れるお兄ちゃんだ。


でも、「異性として」だと――兄弟としてなんとなく複雑な気分になる。


「そんなに驚かないでよ…こっちが恥ずかしくなってくる」

「あ、ごめん」

「玲香って山中君と仲いいでしょ?私に協力してくれる?」


協力か。

協力って何をすればいいんだろう。

恋バナなんて今まであまりしたことがなかったのでよくわからない。

まあ、断ったらあらぬ勘違いをされそうだから仕方なく頷いた。


「いいよ」


沙月の顔がぱあっと明るくなる。


「本当?ありがとう!」


カーテンがふわっと舞った。

はっとしたように沙月は私の後ろを見た。


「や、山中君、今の話聞こえてなかった…よね?」

「ん?なんのこと?」

「はぁ…よかった」


沙月がほっとした顔もちで私に視線を戻す。


「ねぇ、話変わるけど――…」


沙月が何かを言いかけたそのとき、同時に後ろから声がした。


「レイちゃん、ちょっといいかな」

「あ、リンス。どうしたの?」


リズ姉が手招きしていた。

うーん。

リズ姉のところに行きたいけれど、沙月が怒るかな…

話を遮られちゃったんだし、怒るよね…


「なによフリーズドライ?玲香は今私と話してるんだけど。私の話遮って楽しかった?」


やっぱりこうなるか。

沙月は噛みつかんとばかりの勢いでさらに怒鳴った。


「しかも玲香のことレイちゃんって呼ぶなんて生意気だと思わないわけ?」


リズ姉は鬱陶しそうに窓を向いた。

どうしよう。

いつも衝突しているこの二人。

いい加減仲直りしてほしい。


「あのさぁ、沙月」

「何?玲香」

「るきが見てるから、今はあまりそういうこと言わない方がいいと思う」

「…」

「…」

「…あ、えっと、その、ご、ごめんね、山脇さん!ちょっと言いすぎちゃったかも!玲香、山脇さんのところに行ってきなよ!」

「うん。ありがと。行ってくる」


…よかった。恋の力は偉大だった。

これからはこの手を使おう。


立ち上がって後ろを見ると、るき兄は何も知らなさそうな顔で本を読んでいた。

――るき兄には、好きな人がいるんだろうか。

いつか聞けたらいいな。

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