第35話 EX1-7 夢の行方

「ねぇ、クロム。貴方が言ってた町ってここ?」


 コックピットの中から長い銀髪を首元で纏めた少女が尋ねる。そんな彼女の眼下に広がるのは町と言うにはいささか寂れた村と言って良い集落が広がっていた。


『あい変わらず、寂れてるなー』


 答えになって答えを半笑いで返すのは銀青の機兵。機兵は町を見渡すと倉庫のような建物のところで視線を止める。


『先生、元気にしてるかな』


 言うが早いか銀青の機兵は倉庫に向かって駆けだしていた。




 機兵を優に収められる巨大な倉庫を前に銀青の機兵がしっかり閉じられたシャッターを数度軽く叩くとゴンゴンと打撃音が倉庫に響く。

 暫くたつと中から機兵特有の重量のある足音とかすかにパタパタと軽い足音がシャッターの前に近づいてきた。

 ガガガガと擦れたような音をたてながら開かれたシャッターの先には所々装甲に継ぎ接ぎのある灰白の機兵とその足元には眼鏡をかけ、黒髪をポニーテールに結った高校生ぐらいの年頃の少女。少女の傍らには黒い中型犬が寄り添っている。

 銀青の機兵の姿に一瞬、灰白の機兵の黄色い瞳がチカチカと瞬いた。


『……貴方はCKですよね?』


 流暢な電子音声の問いに笑うような声で銀青の機兵は答えた。


『あぁ、俺はCKだ。SS400フェツルムも元気そうだな。……なぁ、そこの女の子は誰だ?』


 CKはSS400フェツルムからその足元の少女の方に視線を移し尋ねると


「ちょっと!忘れるなんてひどい。ボクだよ。CKが助けてくれたじゃないか」


 目に涙を溜め怒る少女に『嘘だろ……』とCKは驚きと呆れ半分と言った呟きを零した。


『お前、女の子だったのか……男の子だとばっかり思ってたわ』


「それは……先生にも言われた」


 そこは少女も否定せず気まずげに視線をCKから逸らす。


『その、悪かったな間違えてて。お前のことはちゃんと覚えてるさ。今も医者になるの目指してるのか?』


「勿論、頑張ってるよ」


 間違いを謝罪し、CKが現況を尋ねると少女は元気よく応えていると診療所の扉が開き、病的にやせ細った眼鏡をかけた白衣の中年の男性が姿を現した。


「まったく、病人が寝てるってのに元気な奴らだよ」


 皮肉気な内容に対し、男性の口調はどこか嬉しそうだった。


『……先生、久しぶりだな』


 CKが男性に声をかけると、男性は一瞬大きく目を見開いた後に満足げな笑みを浮かべた。


「CK、お前は元気そうで何よりだ」


 弱々しく微笑む男性に尋ねるCKの声は男性の身を案じているものだった。


『先生、どこか悪いのか?』


「長年のこいつのせいかな」


 そう言って白衣の胸ポケットから煙草を取り出そうとすると煙草の箱は素早く駆け寄った黒髪の少女に没収される。


「いい加減止めなよ、先生」


「もう、そう長くないんだ。好きにさせてくれないか」


 顔を真っ赤にして起こる少女に対して男性は諦めたような笑みを向けた。


「ねぇ、クロム。あの先生って人がクロムがお世話になった人だよね?」


 コックピット内で銀髪の少女が尋ねる。


『あぁ、そうだ。今回、ババァ……じゃなかったALが探して来いって言ったマサシ・シゲタ大尉だ』


「そっか、じゃあ挨拶しないとね」


 言うと銀髪の少女はコックピットハッチを開くと身を乗り出し笑顔でシゲタ達に手を振った。


「初めましてあたしはミィ。クロム、えーとCKクロム・カイザーのパイロットやってます。今日はマサシ・シゲタ元大尉にお話が合ってきました」


「俺に用事?誰が?」


 首を傾げるシゲタにミィは話を続けた。


特別機ナンバーズ統括、現ユーミル総統閣下ユヅキ・キホウイン様が貴方に復隊を希望しています」


「何で、俺みたいなしがない元軍医なんかを……」


 困惑の表情を浮かべるシゲタにミィは安心させるように微笑む。


「貴方がクロムの背中を押してくれたから今のユーミルがあります。復隊の件は一先ず置いておいて…『ALがうちの悪ガキが世話になったって、礼がしたいんだとさ』


 笑いながら話に割り込んできたクロムにミィは「まだ、あたしが話てる途中だったのに」と唇を尖らせ怒るのをクロムは笑って流した。


『それに……ユーミルの医療技術なら先生の病気もたぶん治せる』


 先ほどまでとはうって変わった少しトーンの下がった真面目な口調で話すとクロムに、少しの間シゲタは考え込むようなそぶりを見せた。暫くしてシゲタは茶化すような口調と笑顔でクロムに尋ねた。


「ユーミルの招待状は一枚だけか?」


 シゲタの視線の先には黒髪の少女と黒い中型犬にSS400フェツルムの姿。


『あのALがそんなけち臭いことすると思うか?』


「いや、豪快な方だからなぁ」


 笑い合う二人に慌ててミィが補足を入れる。


「も、勿論、シゲタ元大尉の関係者の方も一緒にお招きしろと言われてますから、大丈夫です」


 ミィの言葉にどこか不安げだった少女の顔がぱっと明るくなる。心なしかSS400フェツルムからも安堵の息が零れたようにクロムには見えた。



 豪快なエンジン音と轟かせてユーミルからの輸送機が到着するのにそれほど時間はかからなかった。


 輸送機の客席に楽しそうに向かうミィと黒髪の少女ミライの後ろ姿を微笑まし気に見つめながらシゲタはゆっくりとした足取りで追う。その傍らには気遣うように黒い中型犬が寄り添っている。

 客席とは反対方向の格納庫部へ向かうSS400フェツルムとクロム。先に格納ハンガーにSS400が固定され、これからハンガーに固定されるクロムにシガタが声をかけた。


「CK、お前の願いは叶ったか?」


 シゲタの問いにクロムは苦笑いを零した。


『いいや、まだだ。それでも、前進はしてる』


 その答えに「そうか」とシゲタは満足そうに頷くと輸送機の内へと消える。ガシャンと格納ハンガーがクロムを固定すると輸送機のすべての扉が閉じ、機兵とパイロットたちを乗せて澄み渡る青空に向かって飛び立っていった。


 ーおしまいー

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Cr&My 鋼の明日はどっちだ 犬井たつみ @inuitatumi

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