第27話 変わる世界
その後のALと
こうして巨獣掃討国家ユーミルは無血開城を終えた。国政主が新たに変わったからと言って国がすぐに変わる訳もなく、内政が落ち着くのに最終的に半年を要した。
政変は無事に終わっても、まだ武力でそれを覆そうとする者もいる。そのため特別機のほとんどは国内の治安維持にあたっており、国外の巨獣討伐には少数精鋭ということで最強の剣と謳われた
青草がそよぎ青く澄み渡る空の下には血に濡れ横たわる30m級の巨獣の躯と赤銅色に輝く機兵と銀青から青鉄色へと変化する機兵の姿があった。
『巨獣が生産されなくなった効果がやっと出てきたな』
そう、CKに声をかけたのは赤銅色の機兵CW。
『そうだな』
返すクロムの視線は頭上の空にあったが、その声はどこか笑っているようだった。2機が一息入れていると、討伐要請のアラームが鳴る。
「まったく人使いが荒いんだよ」
愚痴を零すCWの男性パイロット、ユウシロウ・イクサベに
「頑張りましょう。明日はもっと要請が減りますから」
とミィが声援を送ると不承不承ながらも「そうだな」とユウシロウは頷く。要請からわずか数分で2機の前には次なる要請地へと誘うための輸送機が上空から姿を現し、その身に機兵を収めるとあっという間に飛び立っていった。
ミィとクロムが中央機兵待機所に戻るのはこの半年、ほとんど夜も更け時刻が変わるかというところだった。それに対して出撃はほぼ日の出から。出撃して戻ればただ寝るだけという日々が続いている。肉体的、精神的にも辛いこの状況にもミィは弱音一つ吐かずクロムと共に各地を飛び回っていた。
それでも疲れは貯まるもので、帰りの輸送機の中でミィは眠ってしまい、クロムが待機所のメンテナンスハンガーに戻っても全く起きる気配がなかった。
(こう、ぐっすり眠ってると起しずらいな)
あまりにも気持ちよさそうに眠るミィにクロムが起そうか迷っていると待機所の奥の扉が開き銀の淑女が鋼鉄のヒールを鳴らしながら歩み寄ってきた。
『AL、こんな時間に何の用だ?』
少しばかり音量控えめな声でクロムが尋ねるとALの胸部コックピットハッチが開き白髪の少女の形をした老女、ユヅキ・キホウインが顔を覗かせると口元に人差し指を立てる。
「静かに。そっとハッチを開けな」
ユヅキに指示されクロムは出来る限り静かにハッチを開く。開かれたコックピットに伸ばされたALの手を橋にしてユヅキはクロムのコックピットに乗り込んだ。静かにミィが起きないようにそっとユヅキはミィをその小柄な体で抱き上げるとALの掌に戻っていく。ALの元に戻ったユヅキが振り返るとALも同時にクロムの方を向いた。
「この子は私が部屋に連れて行くよ」
『あんたも今日は休んでおきな』
どこか微笑んでいるような声を残しミィとユヅキを掌に乗せて待機所を後にするALの背中に『そうさせてもらうわ』と呟くようにクロムは返すと全システムをスリープモードに移行させた。
「ねえ、クロム起きて!」
翌朝、興奮気味に呼びかけるミィの声でクロムのスリープモードが解除される。
『ん……どうしたミィ?朝っぱらからなんだ?』
まだ、システムが立ち上がり切らずどこか寝ぼけたような声を出すクロムの足元で興奮の冷めないミィは言葉を止めどなく投げつける。
「今日からね、あたしたちの任務内容が変わるの」
瞳をキラキラと輝かせながら熱く語るミィにまだ寝ぼけているクロムは内心で『そうかそうか』と適当に相槌を打っていた。
「何と!今日からあたし達の任務は各地に生息する巨獣の生態調査になります!!」
『おい、それって』
システムが完全に立ち上がり目を覚ましたクロムが驚きの声を上げる。
「調査だから、もちろん報告義務はあるけど、あたしたちの采配で行先を決めれるってこと。だから『海にも行ける』」
被せられたクロムの言葉にミィは満足げに笑みを浮かべた。
『よし、海行くぞ!』
言うと同時にクロムの鋼鉄の手がミィに伸びその身を胸部コックピットに収める。コックピットハッチが閉まると同時にクロムは中央機兵待機所を飛び出し、MAPの示す海岸線へと駆けだしていた。
「ミィちゃん、クロム。今日から二人の任務は……」
キョウコの声が空になったメンテナンスハンガーに虚しく響く。
『キョウコ、ふたりとももういないよ』
ニッケルの言葉にがくんとコックピット内のキョウコは項垂れた。はあとため息を吐き出し顔を上げたキョウコは眉根を寄せながらその口元には笑みを浮かべている。
「まったく、あの二人らしいわ。そういう訳で統括、コード
苦笑いで報告をするキョウコに通信相手であるユヅキは愉快そうに笑っていた。
「まったくあの
「了解しました、統括」
ため息と一緒に苦笑いも吐き出すとキョウコは顔を引き締め機兵待機所を後にした。
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