第26話 特別機集結

『戦争でも始めるつもりか銀月!?』


 MJの焦り声にALは不敵に笑って見せる。


『誰が、そんな面倒なことするかい。もっと簡単なことさ。上層部の奴らを全員解任してそこにあんた達や志を同じくする奴らを据え置くだけさ』


 簡単に言ってのけるALに疑問の声を上げたのはキョウコだった。


「そんな簡単に解任なんて出来るもの?……あっ」


 疑問を口にしてからキョウコは何かを思い出し、はっと息をのんだ。


「だからなの?この任務が終わったら私を貴女付きの秘書に任命したのって……」


『そういうこった。目的がなきゃ、上層部の議長なんて面倒なこと誰が好き好んでやるか』


 軽く愚痴を零しながら理解が早くて助かると言わんばかりにALは笑うとすっと両腕を上げ、円柱の間に響かせるように高らかに通告した。


特別機ナンバーズ統括、ALが通達する。全ての特別機は即刻円柱の間に集結せよ』


 音は振動。暫くすればその振動は止まり円柱の間に静寂が訪れる。静寂が訪れたのもつかの間、次の瞬間には2つの円柱を囲むように21の光の円が床に浮き上がり、21の特別機がその姿を現した。


特別機ナンバーズ、全機。統括のもとに参りました』


 鈴の音のような涼やかな凛とした少女の電子音声が響く。ALを鋼鉄の淑女と現すなら声の主、PPプラチナ・プリンセスはその名の通り白金の姫君。たおやかにPPがALに向かってカーテシーで一礼するとそのほかの機兵達は一斉にその場に跪いた。クロム、ニッケル、MJも慌ててそれに倣い跪き、姿勢を正す。


『統括、本日の招集はどのようなご用件でしょうか?』


 白金の姫君が銀の淑女に尋ねる。


『まあ、話は聞こえていたと思うが上層部を解任してこの国をわたし達のものにしようと思う』


 聞かされていたとはいえALの言葉に驚き目を激しく点滅させるもの、『さすが姐御』と豪快に笑いだすものと特別機たちの反応は様々だった。PPと言えば両手を胸の前に合わせながら『それは素敵なお考えですわ』と微笑んでいる。

 そんな中、一人盛大に焦っている機兵がいた。


『おいぃぃぃ、ババァ!いつから俺達の会話を全員に流してた!?』


 クロムの問いにALはああ、そんなことかと言いたげに返す。


『いつからって?あんた達がこの円柱の間に来た時からずっと見てたさ』


 このALの言葉にMJが怒気の籠った声で問う。


『最初から見ていたなら何故止めなかった』


『わたしが止めて、それであんた達は止まったかい?あんた達の想いはわたしごときの言葉で治まるものなのか?』


 ALに問い返され、MJは言葉を失う。たとえALに止められたとしてもクロムとMJは戦うことを止めなかっただろう。貫きたい想いが二人にはあった。それはぶつかり合うことでした収まらない代物。頭部を2、3度横に振るとMJは静かな声でALの問いに返した。


『我も、CKも止まらなかっただろうな。しかし、全員に流す必要があったのか?』


 MJの問いにALは騒ぐクロムの方に視線を向けると、跪いていたはずの機兵達はいつの間にか立ち上がりクロムの周りを笑い声を上げながら囲っている。少し離れているもののその笑い声や会話はMJとALにもしっかり聞こえていた。


『お前が主を殺して脱走したなんて、端から俺は信じてなかったけどな』


 そう言って、クロムの首に腕を回してきたのは全身武装の塊の赤銅色の機兵だった。


CWシーダブリューは俺を信じてくれてたのか?』


 不安げにクロムが問えばCWカッパー・ウェポンマスターは自身の後ろにいる機兵達を親指で指さすとそこには微笑んでいるかのように頷く機兵達の姿だった。


『我らは主と在る存在モノ。その我らが主を害するわけなどない』


 20の機兵の声が見事に一致する。


「お前たち……」


 機兵達の内から驚きと申し訳なさの混じったような声が漏れる。クロムの無実を信じていなかったのは主と同じパイロットの方。

 辛気臭くなりそうな雰囲気を壊したのはクロムに絡んでいたCWだった。


『流石、CK。俺から最強の肩書を持って行っただけはあるな』


『ん?何がだ?』


 グリグリと頭を乱暴に撫でまわすCWにクロムははてっと首を傾げる。


『間違っていると知りながらも、誰もなしえなかったことをお前は一人でやろうとしてたんだ。それは凄いことだ』


『ただし、つめは甘いがな……』


 笑うCWに冷静に突っ込みを入れたのは銀灰色の大盾を手にしたWDウォルフラム・ディフェンダー


『全部、CK一人で背負うことはありませんわ。貴方にはわたくし達特別機ナンバーズの仲間がいるではないですか。そうですよねAL?』


 そう言うとPPはALに向かって微笑む。


『ああ、そうだよ。これがあんた達が見せつけた想いに対してのわたしたちの答えさ。あんた達がみんなの心を決めさせたんだよ』


 微笑み返すALの隣で驚いたように赤くなったツインアイをMJは点滅させていた。


 ガシャンガシャンとALが両手を打ち鳴らすと機兵達の視線が一斉にその手に集中する。


『さてと、これからこの国を乗っ取るが、反対の者はいるか?』


 ALの問いに応えるものはなく、沈黙が是と応える。


『……よし、此れより上層部議員の更迭を行う!』

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