第25話 これまでの事、これからの事

『さて、誰がわたしに説明してくれるんだい?』


 見下ろすALの視線の先には特別機ナンバーズと呼ばれる最高峰の26体の機兵のうち3体がどういう訳か硬い床の上で正座をさせられている。

 関節に柔軟性を持っているクロムはきちんと正座が出来ていたが、そこまで柔軟性のないニッケルはふくらはぎと臀部に隙間ができ、関節の固いMJに限ってはもはや膝立ちと言っても良かった。

 ALの言葉に自然と視線はクロムの所に集中する。視線に気づき『えっ、俺?』と慌てクロムが自身を指さすと、MJとニッケルは首を縦に振った。


『上手く説明できるか自信はないけどな……』


 そう前置き、後ろ頭を掻きながらクロムはここに至った経緯をALに語り始めた。


 主が突如いなくなり、残された自立AIクロムは自由に生きろと世界に取り残されたこと。いなくなった主を探しながら自身だけで巨獣と戦っていき、滅ぼされた町で出会った少年とのことで主が死んだことを悟ったこと。主の居なくなった世界で自身が出来ること、主が望んだこと、それが巨獣の居ない世界だと。

 全ての巨獣は始まりの巨獣のクローン。始まりの巨獣がいなくなれば新な巨獣は作られなくなる。元を断つため始まりの巨獣を探している中でミィに出合ったこと。そして、見つかり捕獲されユーミルに連れてこられた。本来なら自立AIは初期化されるところをMJが権限でさせなかったこと。MJと自身の存在と目的をかけ勝負し、勝利したこと。そして現在に至る。


 かなり端折って語ったクロムのいきさつはそれでも優に2時間を要し、その間、誰もが固唾を飲んでその言葉に耳を傾けていた。


『これが、俺がここに行きつくまでの話だ。説明になったか?』


 自信なさげな視線をクロムがALに向ければ、鋼鉄の淑女は『そうだったのかい』と呟くと正座のままの青鉄色の機兵の頭部を自身の腹に引き寄せると優しく撫で始める。


『おぃ、AL何のつもりだ?』


 突然の子ども扱いに戸惑いの声を上げるクロムにALは頑張った子供を褒める母親のような穏やかな口調で語りかけた。


『10年前から、年に10件ほどだがね、ユーミルの巨獣討伐隊が到着する前に巨獣が倒されている報告が挙がっていたけど、あんたがやってたんだね。ホント、口は悪いけどあんたは良い機兵だよ』


『俺が良い機兵?』


 自信なさげに問い返すクロムにALは慈母の微笑みを返す。


『あぁ、そうだよよく頑張ったね』


「よく頑張ったな。CKは俺の自慢の機兵息子だ」


 ALの言葉と過去の主の言葉がクロムの中で重なった。それと同時にクロムと主とが過ごしたメモリーが濁流のようにクロムの電脳の中を駆け巡る。

 疑似感情が爆発するのは直ぐだった。撫でるALの手を掴みクロムは声をあげて泣いていた。そんなクロムの頭を泣き止むまでALは優しく撫で続けた。



『AL、俺は始まりの巨獣を倒す』


 泣き止んだクロムが初めに口にしたのは始まりの巨獣を倒すという言葉。それと同時に立ち上がり両腕のブレードを円柱に向かって構えた。ALは静かに首を振り否定すと青銀の両腕を優しく掴み下ろす。


『始まりの巨獣を倒してもあんたの主の望んだ世界は来ない。それにこいつを倒したら次に倒されるか利用されるのはわたし達機兵だよ』


『何でそうなる?俺達は守護者だろ?』


 理由が分からず首を傾げるクロムに対して理由が分かってであろうMJが口を開いた。


『今は巨獣という脅威がいるからこそ、我らは守護者足りえる。しかし、巨獣がいなくなればそれと同等の力を持つ我らが脅威となる。……CK、人類は自身らを超える驚異の前にその存在を排除しようとするか従えようとするんじゃよ』


『それって……』


 汗などかかないクロムの背に嫌な汗が流れる様な感覚が襲う。


『我ら自立AIは消され、人類の道具ならまだ良いだろ。兵器となり果て、今まで守ってきたものを消し去るだろうな』


 MJの言葉にキョウコが叫んだ。


「そんなの!そんな世界、お父さんは望んでなんかいない!!お父さんが望んだのは理不尽に命が奪われず貴方たちと共にある世界よ!」


『だ、そうだよ。それであんたはどうするんだい?』


 ALに問われてもクロムはただ、俯くしか出来なかった。『……どうすりゃ良いんだよ』俯きこぼれたクロムの小さな呟きをALは聞き逃さなかった。


『わたしに考えがある。あんたたちが協力してくれたら悪いようにはならない寸法さ』


『何をするつもりだ銀月?』


 MJが問えばALは胸を張り両手を腰にあてると不敵な笑みを浮かべている様な声で答えた。


『この国を乗っ取って、わたし達機兵の国にするんだよ』


 ……

 …………

 ………………

 AL以外の全ての思考が停止した。


 暫くして時が動き出した時には3体の機兵と少女と女性の驚き叫ぶ声が円柱の間にこだました。

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