第22話 CK→クロム
最強の盾と剣の戦いを見届けた明銀の機兵が最初に起こした行動は内部バッテリーの切れた銀青の機兵への電力補給だった。
枯渇した電力が機体を巡り、≪システムを起動します≫という電子音声がCKの内から流れると暗かった双眸に青い光が灯る。CKの青いカメラアイが何かを探しているのかキュイキュイと拡大縮小を繰り返した。
「ミィちゃんなら無事よ」
声の主、キョウコの方にCKが視線を向ければそこはニッケルの開かれたコックピット。そのシートの上にはキョウコに横抱きにされたミィの姿があった。
「あたしなら大丈夫」
すこしばかりひきつった笑みを浮かべながらミィはCKに向かって手を振った。
『──貴女が無事で良かったです』
どこか安堵したような響きのあるCKの声。クロムならすぐ駆け寄っているところだろうが、CKはその場に佇むばかりだった。駆け寄りたいと思っても戦術AIであるCKは命令がなければその場から動くことも出来ない。それを察してかミィは優しく「CK来て」と自身のもとに招き寄せた。
キョウコとミィの前に着くとCKは片膝をつき、開いた左手の平をミィの前に置き次の言葉を待った。キョウコに支えられながらミィは立ち上がると差し出されたCKの手の平に座るとその青いツインアイを見つめ微笑んだ。
「乗せて」
『了解しました』
CKが了承すると同時に胸部甲が開き、コックピットがあらわになる。静かにCKはミィをシートに座らせるとバスンと音をたててコックピットハッチは閉じた。全天周囲モニターは暗闇を映し、内部の計器類が放つ仄かな光がコックピット内で蝋燭の灯のように揺らめいている。
『本機の役割は戦うことです。それは終わりました。……
「CKはもう良いの?」
『本機の役割は終わりました。それに、
抑揚のない電子音声。それでもミィにはその声はどこか満足げに微笑んでいるように聞こえた。
「ありがとうCK、またね」
『本機は貴女と出会えたことは僥倖でした』
静かに二人は会話を終えるとミィは操縦桿の間にある青いボタンをゆっくりと押し込んだ。青いボタンが赤へと変わると暗闇を映していた全天周囲モニターはあたりの景色を映し、クロムのミィを心配する声がコックピット内に響いた。
『大丈夫か、ミィ!?』
「まあ、なんとか?」
ごまかし笑いを浮かべるミィにクロムは深いため息を吐く。
『あのなぁ、ごまかしても怪我とか骨折とかすればモニタに表示されるんだよ。全く無茶しやがって』
暫しの沈黙の後語られた言葉には深い感謝が込められていた。
『…………でも、頑張ってくれてありがとな』
その言葉にミィは満足げに機内カメラに微笑みを返すと『もう、無茶するなよ』少しばかり怒った声色のクロムにミイは小さくなりながら「ごめんなさい」と小声で返すのだった。そんなミィにクロムは
『まあ、ミィが無事ならそれが一番さ』
と言うその声は撫でられるものならミィの頭をやや乱雑ながらも撫でているような暖かなものだった。
『さーてと』そう言いながらクロムは立ち上がると原初の巨獣の方にではなくMJの方へと足を向けた。
MJの傍らにかがみこむとクロムはバッテリーが切れたその上半身を起き上がらせると腰の充電ソケットに自身の大腿にある予備バッテリーを差し込んだ。電力が回りMJの暗かったカメラアイに緑の光が灯る。
『起きろ
『なんじゃ、モーニングコールが悪ガキとはな』
『贅沢言うな』
ぼやきながら起き上がるMJにクロムは拗ねたような声を出す。起き上がったMJの視線は自然と二つの円柱に注がれた。
『なんじゃ、まだ壊しとらんかったのか』
意外だという声がMJから零れる。
『まあ、俺も今さっき起きた所だからな』
軽く後頭部を掻きながらクロムの視線も円柱に向かう。
『MJが止めないなら、もう急ぐ必要はないさ。それより先に気になることもあるからな』
『気になることじゃと?』
はてとMJが首を傾げる。
『もう一度言う。カネツグのジイさんはどこだ』
クロムにしては珍しく真剣で少しばかりトーンの下がった声色で尋ねた問いにMJは押し黙るだけだった。その不穏な空気を察してニッケルが戸惑いがちにクロムとMJの傍に歩み寄ってくる。
「ねぇ、モリブデン。伯父様はそこにいるのよね」
尋ねるキョウコの声は震えていた。
『あぁ、主はここにおられる』
そう答えるMJの声はどこか観念したような響きがあった。堅牢な装甲に覆われたMJの胸部装甲が開く。開け放たれたコックピットシートの上には30cmほどの銀色のカプセルがひっそりと鎮座していた。
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