第18話 真実
『始まりの巨獣と機兵……なんでそんなものがユーミルの地下に』
クロムの疑問に答えたのはいつの間にか光を失った円から離れ、黄金の巨獣と機兵の間に立つMJだった。
『巨獣が生まれたから我ら機兵がある』
『そんなの機兵なら誰だって知ってる。何で巨獣がいるのかって俺は聞いてるんだ』
当たり前の答えを返すMJにクロムは苛立ちに似た声を上げる。クロムの苛立ちを受けてもMJは尚山のごとく不動であった。
『ここに2体いるというだけでヌシには分からぬか?』
『分からないから聞いて……』
そこでクロムの声は途切れた。様々な可能性が電子頭脳の中を駆け巡る。そのうちの一つが現在目にしている状況と一致した。
『ユーミルが巨獣を作ったっていうのか?でも、何のために?』
クロムの赤く輝くツインアイが不安からかその光を小さく震わせる。
『巨獣が生まれたのは奇跡とも呼べる偶然だった。奇跡を目の当たりにした人類は巨獣に希望を見出したのだよ』
「希望?巨獣に希望なんてないわ。あるのは絶望だけよ!」
キョウコの悲鳴に似た叫びがただただ広い円柱の間に響く。そう、巨獣が持っているのは圧倒的質量による暴力。人類はただ食われ、破壊されるだけ。立ちはだかる機兵とて時には破壊され、主を失う。そこに希望などどこにもない。
不出来な生徒に優しく語り掛ける様にMJはクロム達に話し続けた。
『いいや、巨獣は希望だ。ヌシらは知らんだろうがな、ヌシらが生まれる前の世界は増加の一歩をたどる人類たちの醜い争いで溢れていた。このままでは人類同士で滅びに向かうというところで神は人類に救いの手を差し伸べた。
それが巨獣だ。巨獣のおかげで人類は適度な数となり、争いを激化させる文明もあらかた滅んだ。こうして人類は滅びの道を回避できたのだ。巨獣はいわば調停人なのだよ。そして我ら機兵は調停人を監視するもの。分かりやすく言ってやろう。巨獣は羊、我らは羊飼いなのだよ』
MJの言うことにも一理ある。しかし、救えなかった命をいくつも見てきたクロムには納得などいくものではなかった。強く握られたクロムの拳が金属同士が擦れ合う不快な音を立てる。
『あんな狂暴な羊いてたまるか!MJだって見たことがあるだろう。巨獣に滅ぼされた国や町がどんなに悲惨だったか。それを見ても巨獣が希望だって言うのか!!』
怒鳴り声を上げるクロムをMJはやれやれと呆れたような眼差しで見下ろした。
『人類が滅びぬためには必要な犠牲だったのだ』
「……そんな。必要な犠牲なんて。みんなただ普通に暮らしていたいだけなのに」
優しくしてくれた町の人の姿を想いミィが目に涙を溜める。溢れた涙が零れ落ちコックピットの操縦桿を濡らした。
『必要な犠牲なんてあってたまるか!そんなのを希望と言うなら俺が壊してやる!!』
怒りをあらわにしてクロムが吠え、両腕のブレードを展開させMJの後ろに控える巨獣に向けるとMJは憐れみを込めた眼差しでクロム見つめた。
『だから、ヌシの主は消されたのだ』
『は?……何を言ってるんだ』
クロムの中で煮えたぎる様な怒りが急速に冷めていく。強く握りこんでいた拳が小刻みに震える。
『ヌシの主も同じことを言っておったよ。巨獣の根源であるこの始まりの巨獣を殺すとな』
クロムの冷えた思考が再び怒りで燃え上がる。一瞬で青鉄の機兵は巌のように聳え立つ銀緑の機兵の胸ぐらに掴みかかっていた。
『お前が!お前たちが!!俺の主を殺したのか!!!』
今にも殴りかかろうとする青鉄の腕を倍ほどある逞しい銀緑の腕が静かに掴む。
『我はただ、ここでそれを見届けたにすぎぬ。やったのは上層部の連中だ』
『なんで止めてくれなかった!』
泣き叫ぶような声を上げるクロムに向かってMJは大きなため息を吐く。
『止める必要もなかった。ヌシの主だけではない。過去にも秘密を知って始まりの巨獣を倒そうと行動を起したものもいた。しかし、そのすべてが闇に葬られた。ユーミルの秘密を知ったものは秘密を胸に秘めたまま生きねばならぬ。それが出来ぬものは闇に葬られるのだ』
話し終えるとMJは掴んでいたクロムの腕ごとその身を放り投げた。投げ飛ばされたクロムは猫のように宙で体を捻ると軽くガシャンと音を立てるだけで綺麗に着地して見せた。
銀緑の要塞のごとき機兵を睨みつける赤い双眸を怒りに煌々と輝かせ青鉄の機兵が吠える。
『そんな話をされて納得いくわけないだろ!』
クロムの激しい怒りでさえ、山のようなMJはそよ風を受ける様に受け止める。応じる声は凪いだ海のように穏やかだった。
『これがヌシの主の真実じゃ。もう一度聞く。この話を聞いてもヌシのやろうとすることは変わらぬか?』
『変わるわけないだろ。俺は主の夢を、巨獣のない世界を作るんだ!』
どこまでも純粋に主を想い誓われた言葉についに巨山が轟く雷鳴のような大音量で応じた。
『ならば、我を!始まりの巨獣と機兵の守護者である
両肩に備え付けられた大盾の内から左右片刃の斧を取り出し、刃のない方を合わせるとガッチンと噛み合った音をたて片刃の手斧は両刃となり、柄が伸びクロムの胸まである巨大なバトルアックスへと姿を変えた。
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