第19話 MJvsCr

 バトルアックスを携えたMJを前にクロムは片膝をつくと胸部のコックピットハッチを開いた。カチャっとシートベルトのロックが外れると同時に鋼鉄の指がコックピットの内から銀髪の少女を取り出そうと伸びる。


『降りろ』


 短く言い放つクロムに


「いや!」


 とミィは操縦桿にしがみ付いて抵抗した。力加減を間違えればミィがつぶれてしまう。それもあってクロムは強くミィの抵抗に行動が移せなかった。


『今度は怪我だけじゃすまない。……死ぬかもしれないんだぞ。だから、降りてくれ』


 ミィに頼むクロムの声は今にも泣きだしそうなものだった。それにもミィは頑なに降りることを拒否し続けた。


『何で降りてくれないんだ……、俺はミィに死んで欲しく……「あたしもクロムに消えて死んで欲しくないから一緒にいるの。……本当はクロム、死にたかったんでしょ」


 被せられたミィの言葉にクロムは返すことが出来なかった。目が泳ぐように赤い瞳の光が不規則に揺れ動く。

 主がいない世界に残されてもここまでクロムが在れたのは機兵として生まれた矜持と主の願いを託されたから。それでも本心は……


 ──俺は本当は誰かに壊して消して欲しかったのかもしれない


 自身の本心に気づき呆然とするクロムの集音センサーにカチャリとシートベルトの閉まる音と共に自然に胸部のコックピットハッチが閉じられガチャリと音が響いた。その音に気付いたクロムは正気に戻り慌てふためいた。


『ミィ、お前。何勝手に……「あたしは降りないし、死なないよ。だからクロムも死なない。あたしを何だと思ってるの?あたしは生体兵器フェアリー。貴方たち機兵のために作られた存在よ。機兵のコックピットなんてゆりかごよ」


 口をふさぐように言葉をかぶせたミィは自信に満ちた瞳で機内カメラに向かって笑いかけた。


 地に着いていた左膝が離れ、すっとクロムは立ち上がり、両腕のブレードを展開すると少しばかり困ったような声でミィに話かけた。


『約束したもんな』


「約束、守ってよね」


 ふわりと笑いかけるミィに『あぁ』としっかりとした声でクロムは肯定するとMJを見据え両腕のブレードを構えた。


『行くぞMJ!』


『来い!返り討ちにしてくれるわ』


 言葉が終わると同時にMJのバトルアックスとクロムのブレードが激しくかち合い火花を飛ばし、激しい金属音をあたりに響かせる。

 優に数十回、クロムが切りつけてもMJはその場からピクリとも動かない。クロムの攻撃はMJの両肩の大盾と手に持つバトルアックスにことごとく防がれていた。


(ちくしょう、相変わらず堅い!)


 内心毒づくクロム。それでもその目は煌々と赤い光を灯していた。


二重分体ドッペルゲンガー起動』


 発動ワードと共にクロムの隣には全く同じ姿の青鉄色の機兵が両腕にブレードを携えていた。クロムが正面から切り込むともう一体はMJの背後に回り込こみブレードを振り上げる。時間差のある二重攻撃にやっとMJが少しばかり避けるような動作を見せるが其れまでだった。何度目かの攻撃のカウンターで分体が切り裂かれその姿を消した。

 すかさずクロムは次の発動ワードを発する。


亡霊ファントム起動』


 言葉と共に5体の青鉄色の機兵が姿を現し、両腕のブレードでMJに切りかかった。4体がMJに切りかかている中で1体がガクンとその場に片膝を付く。


(クッソ、出力が足りない)


 歯がみするクロムに隙をみせたその姿を逃すMJではなかった。迫るバトルアックスの間に4体の青鉄色の機兵が割り込むがその全てが吹き飛ばされその姿を消す。僅かばかりに威力を落としたバトルアックスをクロムは両腕のブレードで受け止めたのつかの間、1000年樹のような太いMJの足から繰り出された蹴りがクロムの腹部を抉った。


「きゃああ」とコックピットのミィが悲鳴を上げ、損傷を受けた部分が内部モニタに赤く表示される。


「ミィちゃん!クロム!」


 キョウコは二人の名を叫ぶと同時に起き上がろうとするクロムの傍らに寄り添いMJに向けてライフルの銃口を向けた。


『邪魔をするなら貴様とて容赦はせぬぞ』


 MJの威圧にびくりと跳ねるニッケルの肩を起き上がったクロムが掴む。


『これは俺達とMJがケリをつけないといけないことだ』


『でも……』


 不安げに銃を構えるニッケルの肩をクロムはゆっくりと後ろに引かせた。


「大丈夫」


 先に自信をもって答えたのはミィ。


『俺達は負けない。だから、キョウコとニッケルは見守っていてくれ』


 次に応えたクロムの声にも自信が込められていた。


「ミィちゃん、クロム。絶対負けないでよ」


 祈るように二人に声援を送るとニッケルは銃を下ろし後方へと下がった。


『まだ、諦めぬか』


 嘆息し睥睨するMJ。


『諦めが悪いんでね俺達は!』


 言うと同時にクロムは再度、両腕のブレードをMJに向けて構えた。

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