第16話 到着。巨獣討伐国家ユーミル
そして時は現在に戻る。
10年前の悲劇を早送りで見せられたミィはあまりのグロテクスさに恐怖し顔を青くして目に涙を浮べ、自然と口元に当てた手は小さく震えている。
ミィの胸を占める感情に恐怖はあった。しかし、それ以上に悲しみが押しつぶそうとしていた。
「クロム……悲しかったよね。…………悔しかったよね、クロム」
大粒の涙に手を濡らしながらクロムにミィは呼びかける。呼びかける声に応えるのは変わらず嗚咽にも似た機兵の呻き声。
「クロム。ねえ、聞いて。あたしがずっと一緒にいてあげる。だから、もう泣かないで、クロム」
涙を零しならがらミィが機内カメラに向かって優し気に微笑むと弱々しい電子声が返ってきた。
『ミィ?……ミィは主みたいに俺の前からいなくならない?』
「居なくならないよ」
『俺を一人にしない?』
「しないよ。約束する」
訝しむクロムにミィは自信のこもった声と笑顔で返すと『ありがとう』と安心したようなクロムの電子音声が機内に流れると同時に全天周囲モニターの映像が消え、全ての電源が落ち計器の光も消えコックピットは真の暗闇に覆われた。
気付けば、鳴り響いていた雨音はいつの間にか止まっていた。
「クロム!大丈夫?」
心配げにミィが声を上げるのと同時に落ちていた電源が自然に入り、コックピット内を仄かに照らし出しす。全天周囲モニターが淡い光を灯すと同時にクロムの驚きといら立ちが混じった声が機内に響いた。
『なんだこれ!また、メモリファイルがぐちゃぐちゃになってやがる。たまにあるんだよな、全く。片付けるのが面倒なんだよなぁ』
一通り愚痴を零すとクロムはぐちゃぐちゃになったメモリファイルを片付けているのか静かになった。
「ねぇ、クロム。さっきの事覚えてないの?」
普段通りの調子に戻ったクロムにミィは安堵を感じつつも先ほどの取り乱したクロムが心配でもあった。ミィの問いにクロムははてと首を傾げる。
『さっき?って言うと航空映像流したことか?』
「ううん、その後」
『その後……』
メモリを遡っているのか静かになるクロム。暫くすると訝し気な声を出した。
『……?、何でこんなところにブランクファイルがあるんだ?ミィは何があったか知ってるのか?』
「覚えてないんだ」
そう呟くミィの声はどこか安堵の響きがあった。
「覚えてないなら良いの」
(忘れられるのは悲しいこと。それでもあんなに悲しまれるなら忘れてくれていた方が良い。あたしならその方が幸せ……)
一人満足するミィにクロムは不服の意を表す。
『一人で納得するな。ちゃんと説明しろ』
「覚えてないほうが良いこともあると思うの」
『そう言われても気になるだろ』
「細かいこと気にしない方がクロムらしいと思うよ」
『俺はそこまで適当じゃないぞ』
「きゃぁ」
二人のじゃれ合いはミィの小さな悲鳴で幕を閉じる。目的地に近くなったため輸送機が急下降を始めたからだ。輸送機の車輪が滑走路に接触し機内が上下に大きく揺れる。数回大きくバウンドした後に輸送機は静かに停止した。
「うーん、良く寝た」
キョウコはコックピット内で大きく伸びをするときりりと顔を引き締めた。
「さーて、これから怖いお爺ちゃんと会わないとね」
『……あの
「どんなヒトなのかな?緊張する」
『MJとあうのひさしぶりだな~』
愚痴るクロム、不安を口にするミィ、再会を喜ぶニッケルと三者三様が口を開いている間に輸送機の側面が開かれ、巨獣討伐国家ユーミルの姿を見せつけていた。
「これがユーミル」
ミィの眼前には天に向かって伸びる銀色の高層ビル群。地表を駆けるのは人ではなく小型の装甲車。上空を飛び交うのは鳥ではなく武装ヘリだった。
「さ、お爺ちゃんがお待ちかねよ」
そう言いうとニッケルはクロムの背中を軽く押して進むよう促した。『だな』と短く頷くとクロムはMJの待つ中央機兵待機所へと足を進めた。
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