第14話 輸送機の旅

 轟音と共に二機の巨大な輸送機がクロム達のいる補給地に降り立ったのは早朝のことだった。輸送機は同型でありながら一機は灰色一色で塗られ、もう一機は銀と黒に塗られている。二機の輸送機は巨大な機体を浮かせるため、搭載されたエンジンは大きくゴウンゴウンとうなりを唸りを上げ騒音を轟かせていた。


 まだ眠たげな眼を擦りつつ騒音に眉を顰めながらミィはクロムのコックピットの中から外の様子を眺めていた。

 灰色一色に塗られた輸送機の側面が開かれ機兵3機が固定できるよう3つのハンガーが設置され、反対側も同じ作りになっており、計6機が収納できるようになっている。ガシンガシンと重量のある足音を立てながら灰白の機兵SS400達が次々と輸送機に収められていく。計5体の灰白の機兵SS400を収めると輸送機の側面が閉じられた。


「ミィちゃん、私達も行こうか」


 クロムのコックピットにキョウコの声が流れる。「はい」とミィが返事をした時には既にキョウコは銀と黒の輸送機のハンガーにニッケルと共に収まっていた。


「急がなくっちゃ」


『そんなに慌てる必要ないだろ』


 置いて行かれると焦るミィにクロムは苦笑いを浮べながら速足で輸送機に向かい、到着するとニッケルの隣のハンガーに背を預けるとガチャリと固定された音が鳴る。暫くすると輸送機の側面は閉じられ、ミィの視界は真っ暗になった。

 闇の中、響くのは輸送機のエンジン音だけ。徐々にエンジンは回転数を上げゴウンゴウンからキュイーンと甲高い音が混じりだす。と同時にふわっと体が浮くような感覚に襲われたミィがキャアと悲鳴を上げた。


「何これどうなってるの?」


『落ち着けミィ、大丈夫だ。暫くしたら元に戻るから』


 わーきゃー騒ぐミィにクロムはどこか呆れたような声を出す。二人がそんなことを言っている間に輸送機は目標高度に達し、水平飛行に移っていた。

 状態が落ち着くと今度は暗闇が気になりだすミィ。


「真っ暗だね」


『まあな、窓もないからな』


 輸送機は強度の関係から窓は作られていない。そのためハンガーに収められたクロム達には外の様子を伺い知ることは出来なかった。


「ねえ、キョウコさん」


 助けを求める様に呼びかけたキョウコへの通信に出たのはニッケルだった。


『キョウコ?キョウコならもうねてるよ。なにかよう?』


 輸送慣れしているキョウコは離陸して早々、アイマスクを装着すると華麗に二度寝を遂行していた。


「ううん、何でもない。ごめんね」


 そう言うとミィは慌てて通信を切るとふうとため息を吐く。仄かにスイッチや計器類から零れる光でコックピット内は真の暗闇ではなかった。なんとはなしに機内カメラを見つめながらミィはクロムに尋ねた。


「ねえ、クロムは輸送機の外がどんな景色か見たことある?」


『いや、俺も直接は見たことないぞ』


「え?」


 返ってきた答えはミィにとって意外なもので思わず驚きの声が漏れていた。


『でも、マスターが旅行の時に俺の端末のカメラで撮影したのがあるから見るか?』


「見る見る!見せて!」


 期待に目を輝かせるミィに『ちょっと待ってろ』と言うクロムの声は微笑ましものを見ているようだった。


 暗闇を映していた全天周囲モニターが唐突に白い雲の海とただただ透き通るように青い空を映し出す。時折、雲の切れ間から海や緑の大地が顔を覗かせる。


「凄い凄い!空、広ーい、海、綺麗ー」


 映し出される映像に喜ぶミィにクロムはある提案をする。


『全部終わったら海でも行くか?』


「え?連れてってくれるの?」


『行ったことないだろ?』


「ないよ。行きたい行きたい!約束だからね。絶対連れっててよ」


『あぁ、約束だ』


 興奮し小躍りしだすミィをクロムは優し気な眼差しで眺めていた。


 真白な雲の海を移していたモニターは次第に灰色の雲の海を映し出すと時を同じくして輸送機の天井がパタタタパタタと雨音が落ちる音を奏で始める。次第に雨音は大きくなりドダダドンドンと激しく叩きつけるものに変わっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る