第10話 古い知人からの入電

『久しいなCKシーケー、ヌシと話すのはいつぶりだったか』


 キョウコの携帯端末から流れる低く落ち着いた壮年の男性の電子音声にクロムは緊張をごまかすかのように不機嫌そうに返す。


『そんなの忘れた。で、用があるならさっさと言え』


『相変わらず、ヌシは話し方がなとらんのう』


『知るか。で、MJジジイ、何の用だ』


 変わらず悪態をつき続けるクロムに、はぁとMJエムジェーは分かりやすく嘆息して見せた。


『全く、このような奴が栄えある特別機ナンバーズの一員で過去とは言え、最強の剣と謳われていたとは嘆かわしい』


 なかなか本題に入ろうとしないMJにクロムは苛立ちをみせる。


『昔話をするつもりで通信してきたわけじゃないだろ。さっさと用件を言え』


 クロムの苛立ちを分かっていながらもMJはゆったりと自身のペースを乱そうとはしなかった。


『ヌシは真実を知っったらどうする?』


 MJの問いにクロムは首を傾げながら問い返した。


『真実?主が死ななきゃいけなくなった理由か?』


『いかにも』


 MJの言葉にクロムのは答えに窮し、沈黙がしばらく続いた。


『……知っても、俺のやろうとすることは変わらないと思う』


『何故そう思う?』


『知ったからと言って主が死んだ事実は変わらない。なら、俺は最後に主が命じた命令を遂行するまでだ』


 クロムの言葉に沈黙を通していたキョウコが興味ありげに尋ねた。


「お父さんはなんて貴方に命じたの?」


『自由に生きろと。自由とは思うようにしろということだろ?なら、俺の思う通りにしたいことは主の夢を……巨獣の居ない世界を目指すこと』


「そんな夢物語あるわけないじゃない」


 想いを語ったクロムにキョウコは興味が覚めた声で小さく呟いた。そんなキョウコに対してMJは豪快な笑い声をあげる。


『カッカッカッ!面白いことを考えるものよ。巨獣がいなくなれば我らの存在理由もなくなるぞ。それでも良いのか?』


『存在理由が無くなったらその時はその時だ。俺達が在る限り、理由なんて後から勝手に出来るだろ』


 クロムの言葉にキョウコだけでなくMJまでもが口をつぐんだ。


『目的のために生まれた機兵が目的を捨てるなど……ありえん話なのだがな。まったく、面白い奴じゃヌシは。冥土の土産に聞かせてやろう。ユーミルの我の元に来るまでヌシを消さぬよう命じておこう。ではさらば──』


 通信を切ろうとするMJにクロムは被せる様に問う。


『もし、俺がMJが面白いと思うような奴じゃなかったらどうした?』


『無論、この場でヌシを消すよう命じたまで』


 返ってきたMJの声は威圧感のある重く冷たいもの。ない背筋にクロムは冷たいものを感じ、キョウコは思わずぎゅっと己の肩を抱いた。


『では、ユーミルで会おう』


 そう言い、通信を終了したMJの声は先ほどとはうって変わって朗らかな好々爺然としたものだった。


 通信が終わり、緊張の解けたクロムとキョウコの二人は思わず同時にため息を吐く。その後キョウコは端末を握りしめたまま、ずるりとシートから滑り落ちた。

 再度、キョウコが大きく息を吐き、シートに座り直すと倉庫に向かってくる足音と話し声が近づいてきていた。

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