第8話 事の終わり

 生物の弱点は一つ目は頭部、二つ目は心臓。特に頭部は弱点が集中していて、眼球は柔らかくその奥の脳にまで攻撃が達すれば死に、頚椎を切断すれば運動神経が断たれ死ぬ。

 首もまた大量失血と呼吸困難から死に至り、心臓も大量失血により死に至る。

 どこか一か所でも攻撃が当てられればクロムの勝ちであるが、即死を狙える頚椎は骨であるため固く、断ち切るのが容易ではない。次に心臓も内臓であり、その周りには強靭な筋肉に覆われていて心臓まで達するのが難しい。眼球は心臓と同じく突き刺すことが前提であり、その場合、ブレードの一本、下手をすれば腕の一本は覚悟しなければならない。

 以上の事から一番リスクが少なく巨獣を倒すためにクロムは首を狙うことを決めた。


亡霊ファントム起動』


 クロムが発動ワードを言うと同時に正面から巨獣に向かって切り込むと、一体だったはずの青鉄色の機体は3体にその姿を増殖させた。3体に増殖したクロムは左右正面の3方向から巨獣を腕のブレードで切りつける。フェイントで切りつけられた左腕、右わき腹、胸から巨獣はおびただしい量の血を流した。

 反撃といわんばかりに巨獣の振るった腕が一体の青鉄色の機体を薙ぐとふっとその姿はかき消えた。全てが実体が有るように見える亡霊ファントムだが、その実は高速移動による残像。高速で動くということはそれだけ機体にも負担がかかっていた。


(これ以上、亡霊ファントムは増やせないな。俺もそうだが……)


 パイロットのバイタルを示すモニタは上下に大きく波打つ波形を示し、荒く苦し気なミィの吐息がコックピットを満たす。

 残った1体を囮にクロムは巨獣の喉元目掛けて飛び上がった。

 眼前に現れた青鉄色の機兵を巨獣は両手で掴んだつもりだった。しかし、その姿は触れると同時に消え、代りに同じ形をしたものが自身の喉元に深く刃を突き立てていた。突き立てたブレードを勢いよくクロムは横に薙ぎ、ざっくりと喉元を抉るとクロムはトンと華麗に着地した。着地したクロムを雨のように舞う鮮血が濡らすと同時にクロムの索敵範囲外から放たれた銃弾が音もなく巨獣の頭部を射抜き消滅させた。

 数瞬後にドンと銃声が辺りに響き渡る。


(まずい!狙撃手スナイパーがいたか)


 新たな敵機を察知し慌てて駆けだそうとしたクロムの右膝関節がバキっと音を立てて砕け、クロムは思わずその場に片膝をついた。おまけにバッテリー残量も残り僅かとコックピット内部の計器が赤いランプを点灯させて警告を行っている。

 右大腿に備え付けていた円柱型の予備バッテリーを掴もうとクロムは手を伸ばしたが、予備バッテリーは狙撃手の一撃でカーンと甲高い音を立て宙に舞い、掴もうとしたその手は空を掴んだ。

 自身より少し離れた所に転がる予備バッテリーを見ながらクロムは悔しそうに呟く。


『俺もここまでか……』


 言い終えると同時にクロムはバッテリーに手を伸ばした形でその機能を停止させた。

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