第2話 青鉄色の機兵《アウルゲルミル》

『全く酷いもんだ』


 惨烈を極めた焼け焦げた元は何かの施設だった瓦礫の山のどこからか、少しばかりここにいたであろう、人々を悼む気持ちを含んだ若い男の電子音声が漏れた。声の主の姿はどこにも見られない。しかし、煤けた瓦礫で灰色に塗りこめられた風景の一部が不自然に歪んでいる。


『敵性存在なし、生存者もなし……か』


 男の声は安堵と落胆の混じったもの。暫し静寂の後、それは音もなく現れた。不自然に歪んでいた景色の一部から全長およそ10mの両腕に折り畳みブレードを装着した青鉄色青みがかったブラックメタリック機兵アウルゲルミルがその姿を現した。


『地上部はダメだな。地下施設でもあれば良いんだが……』


 青鉄色の機兵は赤いツインアイを輝かせながらを頭部を左右に巡らせているとある一点で動きを止める。


『地下施設。やっぱりあったか』


 探し物が見つかった喜びに機兵アウルゲルミルの声はにわかに弾んだ。



 地下施設の入り口は瓦礫で覆われ、本来開くはずのシャッターは歪み開くことが出来ない状態になっていた。この状況は機兵にとって予測済みだったのか別段驚く様子もなく、青鉄色の機兵はシャッターの前に立つと『どぅっせい』と一声かけると腰の入った蹴りを瓦礫に埋もれたシャッター目掛けてはなった。

 一撃で瓦礫とシャッターは破壊され、代わりに機兵アウルゲルミルが通るのに十分な穴が出来上がった。


『ま、俺にかかればこんなもんさ』


 満足げに機兵は腰に手を添え胸を張ると、期待に胸を躍らせるような軽い足取りで穴の奥へと歩みを進めた。


 地下施設内にはまだ電気は通っており、青鉄色の機兵アウルゲルミルがなんとか通れる瓦礫の散らばった通路は白色電球が照らしている。

 地下施設に入って一番手前は運搬用の長方形の運転席に1対のマニピュレータと一対のホールのついた太い足を持ち、背には荷台とそれを支える一本の車輪のついた足を備えた黄色い高さ6mほどの【ホイールローダー】と呼ばれる運用機械の格納庫だった。

 開きっぱなしの格納庫のシャッターの向こうには落下した瓦礫の下敷きになりひしゃげているものがそこかしこに点在している。無事なものは格納庫奥の壁面に待機させられていた数機のみ。

 器用に瓦礫の山を避けながら青鉄色の機兵アウルゲルミルは奥の壁面を目指す。途中、赤黒い染みの着いた瓦礫を目にするたびに機兵の機械の瞳が薄暗く瞬いていた。

 壁面にたどり着くと機兵は【ホイールローダー】の充電プラグを引き抜くと腰から自身のプラグを引き出し充電ジャックに差し込んだ。


『これで、もうしばらくは持ちそうだ』


 ため息を吐くような仕草をしながら機兵アウルゲルミルは壁に背を預けながらその場に座り込んだ。

 崩れて配管や配線のむき出しになった天井を眺める機兵のインターフェイスに充電完了までの時刻が表示される。


『後、1時間半もあるのか。……暇だなぁ』


 暇を持て余した青鉄色の機兵はセンサーで周辺を捜査すると、先ほどは感知できなかった生命反応を確認した。


『生存者がいるのか!?』


 充電プラグを引き抜き、すぐさま立ち上がると、機兵はインターフェイス上のマップに輝く生命反応を示す青い点に向かって駆けだした。

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