第30話

走って走って、学校の近くにある小さな公園まで来ていた。



休まずに走ってきたため、汗が流れ、呼吸が乱れる。



あたしは肩で呼吸をしながらポケットに手を突っ込んだ。



スマホだけは持って来ておいてよかった。



ホッとしながら純の名前を表示させる。



このスマホはあたしのものだから、あたしの名前で表示されるだろう。



それでも仕方がなかった。



今一番頼りになるのは何もかも知っている純しかいないのだから。



あたしは純に電話をかけた。



ほんの少しの間も待っていられなくて、スマホを耳に当てたまま公園内をぐるぐると歩き回る。



『もしもし?』



しばらくしてから困惑したような純の声が聞こえて来た。



純から電話を貰った事も、あたしから欠けたこともないから戸惑っているようだ。



「もしもし、いきなり電話しちゃってごめんね」



そう言いながら、あたしは自分の声が歩である事を思い出した。



『え? お前歩? どういう事?』



更に混乱した声が聞こえて来る。



説明している暇なんてない。



「ごめん、今から出られる?」



『今? あぁ、そりゃぁ大丈夫だけど』



「学校の近くの公園で待ってるから」



そう言うと、あたしは一歩的に電話を切ったのだった。


☆☆☆


それから純が車での間、あたしはベンチに座って地面をジッと見つめていた。

あたしは何もわかっていない。



何も知らない。



歩と入れ替わっていなければ、知らなくていい事だった。



だけど今はもう知らなくていい事ではなくなってしまった。



視界の中に白い運動靴が見えた。



ジャリッと砂を踏む音が聞こえてきてあたしは顔を上げた。



純が怪訝そうな顔をして立っている。



「お前、なんでマホのスマホから電話して来るんだよ」



純が真っ先にそう聞いて来た。



あたしは自分のスマホを純に見せた、そしてこう言ったんだ。



「これ、あたしのだから」


☆☆☆


窓の外の太陽は真上に向かっていた。



ファミレスへ移動したあたしたちは、数日前に歩と入れ替わってしまった事を純に打ち明けていた。



「本当かよ」



話終えた後、純は目を見開いてあたしを見た。



「信じられないかもしれないけれど、本当なんだよ」



ここで信用してもらえないと、話は前に進まない。



だけど、到底信じられる内容でもないだろう。



あたしは考えをめぐらせながら純の反応を見守っていた。



「いや、信じるよ」



「え?」



いとも簡単にそう言った純に、今度はあたしが目を見開いた。



「昨日、お前がマホを叩いたって噂を聞いて驚いたんだ。お前は女に手を上げるようなヤツじゃないし、なにがあったのかなって」



「でも、それだけで入れ替わりを信じてくれるっていうの?」



それではあまりにも安直だ。



そう思いっていると、純は左右に首をふった。



「違うんだ。俺は、元々知ってたんだ」



「知ってた?」



あたしは純の言葉に首を傾げた。



知ってたって、何のことだろう?



「歩が入れ替わりができる能力を持っていたって、知っていたんだ」



そう言う純に、あたしは頭の中は真っ白になった。



入れ替わりができる能力……?



そんなもの、初めてきいた。



「え……待って? 能力って……?」



混乱しながらそう聞く。



「あぁ、ごめん。俺がもう少し早く気が付いていればよかったんだけど……」



純は顔をしかめて頭をかいた。



話が全く見えてこない。



能力ってなに?



どういう事?



「あいつは、生まれつき他人と入れ替わる事ができていたんだ」



ゆっくりと、あたしをなだめるようにそう言う純。



「生まれつき……?」



そう聞きながら、口の中が乾いていくのを感じる。



「そう。好きな時に好きな相手と入れ替われるんだよ」

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