第23話

あたしはスマホの着信音で目を覚ました。



窓の外は薄暗くなり始めている。



制服姿のまま眠ってしまったので、ズボンにシワができている。



上半身を起こし、なり続けるスマホを確認した。



歩からの着信だ。



歩とのやりとりはいつもメールだったため、一瞬とまどうあたし。



もしかして何か問題でも起きたのかもしれないと思い、すぐに電話に出た。



「もしもし?」



『もしもしマホ?』



「う、うん」



少しだけ歩に不信感を抱いているあたしは、ぎこちなく返事をする。



『さっき純からメールがあって今から出て来れないかって誘われたんだ』



「純から?」



あたしは首を傾げた。



純とは数時間前に別れたばかりだ。



『マホ、封筒はちゃんと渡したんだろ?』



そう言われ、あたしはドキッとしてしまった。



封筒から出て来た数枚の現金を思い出し、心臓が早くなるのを感じる。



「わ、渡したよ」



『そっか。じゃぁ、普通に遊ぼうって事だと思う。集合場所は学校の校門前だから』



「い、今から行くの?」



あたしは暗くなってきた窓の外を見てそう聞いた。



『あぁ。両親の事は気にしなくていいから』



「そっか、わかった」



あたしはそう言い、電話を切ったのだった。


☆☆☆


あたしは手早く着替えをして、家を出た。



歩が言った通り、家を出る時には何も言われなかった。



でも、今なんの用事があるんだろうかと疑問になる。



こんな時間に呼び出すなんて非常識だ。



そう思いながらも足を急がせた。



いつもの石段を駆け下りて真っ直ぐ学校へと向かう。



校門前に人が立っているのが見えた。



黒い上下で統一した純の姿だった。



その姿はまるで喪服のようで、ドキッとしてしまう。



「よぉ、呼び出して悪いな」



純は全く悪びれた様子もなくそう言った。



「別に、いいけど……」



あたしは純を見てそう返事をした。



純は歩の弱味を握っている。



純と歩の関係は友人ではなく、脅迫している側と、されている側だと思っていた方がよさそうだ。



下手に純を怒られればなにが起こるかわからない。



歩もそれを理解しているから、こんな時間に呼び出されても無視できなかったんだろう。



「どうだこの服。さっきの金で買って来たんだ」



純がそう言い、上下真っ黒な服を見せて来る。



「あ、あぁ。いいんじゃないかな」



首元のシルバーのネックレスも、きっとさっきのお金で購入してきたものなんだろう。



黒い中でドクロのネックレスが一際目立っている。



「似合うだろ?」



純はそう言いながら歩き出した。



一体なんの用事なんだろう?



心臓はドキドキとうるさいくらいに打っていて、手のひらには緊張で汗が滲んでいた。



これが恋のトキメキなら嬉しいのに、今は純に対しての恐怖心しか持っていなかった。



「何の用事?」



恐る恐るそう聞くと、純は足を止めた。



学校の裏手まで来て、ひと気はない。



長い石段がすぐ目の前にあった。



「お前さ、いつまで海を忘れてる演技を続けるつもりだよ?」



純の言葉にあたしの思考回路は停止した。



海を忘れている演技……?



「え……?」



全身にどっと汗がふきだし、心臓は今にも口から飛び出してしまいそうだった。



やっぱり、そうなんだ?



歩は海の事を覚えている。



だけど、忘れたふりをしていたのだ。



家族にまで、嘘をついている。



それが普通じゃない事くらい、真っ白な頭でも理解できた。



「お前が殺したんだぞ、海の事」



純がなんの感情もこもっていない声でそう言った。



歩が……殺した……?



徐々にその言葉が頭に入ってきて、あたしは目を見開いた。



純をジッと見つめる。



「ころ……した……?」



「はぁ? 俺の前でまでしらばっくれるのかよ」



純は呆れたような声でそう言った。



歩は海を殺した。



その事を純は知っている。



だから純は毎月歩からお金を奪っている。



歩が海の事を忘れたふりをしているのは、その方が怪しまれないから……。



世界が真っ暗闇に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る