第22話

さっきの歩は一体どうしたっていうんだろう?



授業が始まっても歩の態度が気になって、あたしは横目で歩を見ていた。



歩はいつもと何も変わらない様子で授業を聞いている。



『あの日』の事もわからないし、封筒の中身もわからない。



それに、海という歩の兄弟のことも。



歩は海の事を忘れている様子だった。



だけど、さっきの様子からすれば海の事を覚えているように感じられたのだ。



あたしはわけがわからなくて、首を傾げた。



歩は海の事を覚えているんじゃないか?



忘れているフリをする理由があるってこと?



そんな事を考えている間に授業は進み、あっという間に放課後になっていたのだった。


☆☆☆


予定通り、あたしと純は海の墓参りへ行くことになった。



と言ってもあたしは海のお墓がどこにあるのか知らないから、純の後について歩いているだけだった。



学校裏の石段を上がり、丘の裏へと回る。



するとそこには大きな墓地が現れた。



あたしの祖先もここに眠っている。



海も、ここに眠っているようだ。



「ここだ」



先を歩いていた純が1つのお墓の前で立ち止まり、そう言った。



後ろから墓石を覗いてみると、庄司家という文字が見えた。



純は用意していた白い花をたて、墓石を簡単に掃除した。



これが海のお墓……。



あたしはぼんやりと墓石を見つめていた。



お墓詣りに来るとなにかわかるかもしれないと思っていたけれど、ここには見慣れた墓地が広がっているだけだった。



「さてと……」



墓石に手を合わせた純が顔を上げる。



くるりとあたしの方へ向き直り、笑顔を向ける。



その笑顔につられて笑顔になったけれど……「じゃぁ、例の物をもらおうか」そう言われて、あたしは不意に寒気を感じた。



純のこの笑顔が途端に偽物に見えたからだ。



「あ、あぁ」



あたしは平常心を保ちながら、ポケットの中から茶色初封筒を取り出した。



すると純はそれを奪うようにあたしの手から取ったのだ。



純は舌なめずりをして、封筒を破る。



中身が気になっていたあたしは純の手元に視線をやった。



純が指先で封筒の中身を引っ張り出す。



その瞬間、数枚の万札が見えてあたしは目を見開いた。



「よしよし。これでまた一か月間黙っておいてやるからな」



純はそう言い、あたしの肩をポンッと叩くと、あたしを置いて墓場から離れていく。



あたしはしばらくその場から動くこともできず、茫然として立ち尽くしていたのだった。


☆☆☆


封筒の中身は現金だった。



それも、高校生が用意するには大変な金額だった。



あたしは歩の部屋のベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見上げていた。



『あの日』とは、純が歩からお金を受け取る日だったのだ。



『これでまた一か月間黙っておいてやるからな』



純のその言葉から考えると、月に一回、歩は純にお金を渡していることになる。



「……どうして?」



あたしは誰もいない部屋の中で呟いた。



純と歩はクラス内で一番仲がいい友達同士だ。



なのに、なんでお金を支払っているんだろう?



いや、仲がよさそうに見えて本当は違うのかもしれない。



クラスで見せて言う顔は表面上のもので、もっと複雑な関係が隠されているのかもしれない。



あたしはベッドの上で寝返りを打った。



純は歩の弱味を握っている。



だから歩は純から離れる事ができず、毎月のお金もキッチリ支払ってる。



そう考えるのが一番自然だった。



お金を取られてしまうほどの弱味って、一体なに?



あたしは考えた。



けれど考えただけでわかるはずもなく、気が付けば深い眠りについていたのだった。

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