第21話

歩の事も純の事もわからない。



お弁当を食べ終えたあたしはそそくさと教室へ戻り、歩の姿を探した。



歩はカレンと一緒にお弁当を広げて、楽しそうに会話を弾ませている。



すぐに歩と話がしたい。



その気持ちをグッと押し殺して自分の席に座った。



今日の放課後は純と2人で海のお墓まいりに行く。



純の言っていた『あの日』という意味がわからないまま一緒に行動すれば、きっとボロを出してしまうだろう。



そうなる前に、歩に『あの日』がなんなのかを聞いておくべきだった。



「歩」



そう呼ばれた事に一瞬気が付かなかった。



あたしはハッと我に返り、視線をそちらへ向ける。



高瀬が不思議そうな顔をしてあたしを見ていた。



その手にはゲーム機が握られている。



「あぁ……高瀬か」



あたしはホッとしてほほ笑んだ。



「このゲームの攻略法を教えてほしいんだけど」



高瀬はそう言い、ゲーム画面を見せて来た。



画面上にはあたしが見たこともないゲームが映し出されていて、あたしは首を傾げた。



「このゲーム昨年販売されたヤツなんだ。ずっと買わずにいたんだけど、歩が面白いって言ってたから昨日思い切って買ったんだよ」



高瀬の言葉にあたしは「あぁ~そうなんだ」と、曖昧に頷いた。



このゲームの事は歩から聞いてない。



あたしじゃ説明できない事だ。



どうしようかと考えて、横目で歩を見た。



歩はようやくご飯を食べ終えた所のようで、鞄にお弁当箱を閉まっている。



「ここはどうやって攻略するんだ?」



画面上では勇者が門の前で立ちどまっている。



門の中へと入ればいいんじゃないの?



そう思いながらあたしは画面を見つめた。



「その門の鍵は竜を倒したら手に入るんだよ」



そんな声が聞こえてきて、あたしと高瀬は同時に顔を上げた。



そこには歩が立っていて、ゲーム画面を覗き込んでいたのだ。



「あぁ、そうなんだ? ありがとう木津さん。ゲームやるの?」



高瀬がほんのりと頬を赤く染めてそう言った。



「うん。少しだけね」



歩はそう言い、ほほ笑む。



あたしは歩へ向けて「ありがとう」と、小さくお礼を言ったのだった。


☆☆☆


それからあたしは歩と2人で廊下へ出てきていた。



廊下を行きかう字生徒たちの視線を感じるけれど、この際気にしないことにした。



昼休憩はあと10分ほどで終わってしまうから、移動している時間がないのだ。



「あのさ、歩……」



「なに? 深刻な顔して、何かあった?」



心配そうな表情を浮かべてそう聞いてくる歩に、なんだか胸の奥がチクリと痛んだ。



あたしは歩の周りを嗅ぎまわっているから、その罪悪感があるのかもしれない。



「純に『今日はあの日だから』って言われたんだけど、『あの日』ってなんの事?」



そう聞くと、歩はハッとしたような表情を浮かべた。



「そうだった。すっかり忘れてた。ちょっと、ここで待ってて」



歩はそう言うと、一旦教室へ戻り茶色い封筒を持って戻ってきた。



「はいこれ。これを純に渡せばわかるから」



茶色い封筒を受けとり、あたしは首を傾げた。



封筒はしっかり糊付けされていて中身は確認できないようになっている。



「これ、なに?」



中身が気になり、思わずそう聞く。



すると歩はあからさまに嫌そうな顔をした。



「なんでもない。純と俺の秘密だから」



「そ、そうなんだ」



あたしはそう言い、ポケットに封筒をしまった。



あまり深く詮索するのはよくないのかもしれない。



「あのさ歩。海って人を知ってる?」



話題を変えるつもりでそう言ったのだけれど、歩は眉間にシワを寄せてあたしを睨みつけきた。



その険しい表情にたじろく。



「あまり俺のまわりを嗅ぎまわらないでくれる?」



歩は冷たくそう言うと、あたしを置いて教室へと戻ってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る