第15話

その日の学校は何事もなく、無事に終わった。



リナたちがなにか動き出すかと思って注意を払っていたけれど、動き出す気配はなかった。



本命の純がまだフリーだからか、歩への態度を一変させ純にべたべただ。



そんなリナたちを見てあたしは呆れたため息を吐き出した。



男子生徒からこんな風に見えているなら、リナが純と付き合える可能性はほぼゼロだろう。



よくても遊び相手くらいにか考えられない存在だった。



鞄に教科書を入れて帰る支度をしていると、純に声をかけられた。



「歩、今日遊んで帰らねぇ?」



「今日……?」



どうしようかと、歩の方へ視線を向ける。



カレンと一緒に教室を出て行くところだった。



歩もカレンに誘われたのかもしれない。



「あぁ、いいよ」



あたしは頷き、席を立ったのだった。


☆☆☆


男子生徒と外で遊ぶことはほとんどなくて、あたしは少し緊張していた。



純も歩もタバコも吸うらしいし、どこか怖いイメージが付いていた。



それでも一緒に歩き出すとやはり2人はとても仲がよくて、バカな会話をしては大きな声で笑い合った。



「カラオケ行こうぜ、カラオケ!」



純がそう言い、先に歩いて行く。



「あぁ、いいね」



俺もそれに続いて足をすすめた。



ボウリング場と隣接したカラオケ店に向かい、2人で個室へと通された。



「よっし、何歌う!?」



そう聞きながら、純は鞄からタバコを取り出して火をつけた。



その手馴れた動きに思わず見入ってしまう。



純はカッコイイからタバコもよく似合っている。



けど、制服姿のままタバコを吸っている純にドキマキしてしまう。



「なんだよ、曲入れないのか?」



「い、いや、歌うけど……」



あたしはそう言いながら純のタバコを指さした。



「なんだよ欲しいなら言えよ」



何を勘違いしたのかタバコを一本差し出してくる純。



「い、いや。俺は別にいらないけど」



慌ててそう言うと、純は「遠慮すんなって」と、あたしの手にタバコを乗せて来た。



遠慮なんてしていないあたしは、タバコと純を交互に見た。



歩がいつもタバコを吸っているのなら、ここで拒むと怪しまれてしまうかもしれない。



だけどあたしはタバコなんて吸った事ないし……。



そう思って悩んでいると、純がライターを差し出してきた。



「ほれ、火」



「あ、ありがとう……」



ここまで来て断るのは余計に変だ。



あたしは渋々タバコを口にくわえた。



そのまま純が火をつける。



産れて初めての煙草を思いっきり吸い込み……そして、吐き出した。



胸の奥がスッとするような、頭がスッキリするような感覚がある。



せき込んでしまうかと思ったけれど、全然そんな事もなかった。



歩がいかにタバコに馴れているかということがわかって、あたしは少しだけ悲しくなった。



「さ、何歌う?」



タバコを一本吸って落ち着いた純はそう言ったのだった。


☆☆☆


あたしと純は流行りの歌を立て続けに歌い、1時間ほど経った時ようやく少し休憩を挟んだ。



2人で一時間歌いっぱなしだと、さすがに喉がやられてくる。



あたしは冷たいメロンソーダを一気に飲んだ。



「そういえばさ、今日は海の命日だな」



ふいにそんな事を言われ、あたしはキョトンとして純を見つめた。



「海……?」



「あぁ」



純は遠い目をするように天井を見上げた。



あたしはリビングで歩の両親が会話していた時の事を思い出す。



海って、夏休みの計画じゃなかったんだろうか?



海は人の名前?



命日って事は、もう亡くなっている人?



次々と疑問が浮かんでくるけれど、純に直接聞くことはできなかった。



純の話方からすれば、海という人は歩とも近い存在だったことがわかる。



「そ、そうだな……」



あたしは曖昧な返事をした後、話を逸らせたのだった。

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