第14話

どうにかお風呂を終わらせて出て来たあたしは、リビングで両親が会話している声に気が付いた。



何を話しているんだろう?



なんだかさっきまでとは声のトーンが違い、深刻そうな雰囲気がドアの外まで伝わって来る。



そっと耳をすませて聞いてみると「海は……」という単語が聞き取れた。



「海?」



あたしは首をかしげる。



もしかして夏休みに海に行く計画でもたてているのかもしれない。



歩に内緒でこっそりと。



そう思うと、途端に歩の両親が可愛らしく見えてきてあたしは1人ほほ笑んだのだった。


☆☆☆


翌朝。



あたしはスッキリとした気分で目を覚ました。



お風呂にもちゃんと入れたし、寝る前に課題を終わらせることもできた。



歩がお風呂に入ったと言う事だけが気がかりだったけれど、意識しないようにその事は頭の外へと追い出していた。



生きていく上で必要なことだし、仕方のないことなんだと自分に言い聞かせる。



「今日はいい天気!」



あたしは窓の外の青空を見てそう言った。



丘の上から見る空はどこまでも大きくて、まるで吸い込まれそうになる。



あたしが思っていた通りの場所だ。



制服に着替えて鞄を掴み、一階へと向かう。



両親はすでに揃っていて、お父さんは新聞を広げお母さんはコーヒーを淹れていた。



当たり前の日常に表情がほころぶのを感じる。



いいなぁ歩の家は。



平穏な日常が一番の幸せだと感じる事が出来る。



「おはよう歩」



お母さんに声をかけられて、あたしは笑顔で「おはよう」と、返した。



「課題はできたのか?」



お父さんの言葉にあたしは頷く。



あたしは今ちゃんと家族の一員になれている。



そんな気がしていたのだった。


☆☆☆


この日、あたしは歩と待ち合わせをしていた。



昨日から付き合い出したのだから、一緒に学校へ行こうと言う話になっていたのだ。



待ち合わせ場所はあの石段の一番上。



ここからあたしたちの生活は始まったのだ。



石段の前で待っていると、



「おまたせ」



と言う声が聞こえてきて小走りで歩がやってきた。



髪の毛にはあたしのお気に入りのヘアピン。



だけど少しズレている。



「歩、ちょっと来て」



そう言い、あたしは歩のヘアピンの角度を直した。



「あぁ、ありがとう」



歩は照れ笑いを浮かべる。



「マホがいつもつけていたから俺もつけているんだけど、なかなか難しいよな」



そう言って歩は頭をかいた。



「すぐに馴れるよ」



あたしはそう言い、2人並んで歩き出す。



第三者から見ればどこにでもいる高校生のカップルだろう。



あたしたちの心が入れ替わっているなんて、きっと誰も気が付かない。



「ねぇ歩、夏休みはどうするの?」



あたしは昨日聞いた両親の会話を思い出しながらそう言った。



「夏休み? まだ何も決めてないよ?」





歩はそう言う。



やっぱり、2人でこそこそ会話をしていたのは、歩に内緒で夏休みの計画を立てているからだ。



そう思ったあたしは、自然と頬が緩んでいた。



「なにニヤニヤしてんの?」



歩にそう言われあたしは「べっつにぃ?」と、わざとらしく誤魔化したのだった。

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