第13話

ふと気が付くと窓の外は薄暗かった。



あわてて体を起こしてベッドを見ると、歩の姿がない。



「歩……?」



探そうとした時、スマホが光っているのが目に入った。



画面を確認してみると歩からのメールで《今日はもう帰るな。ぐっすり眠っていたから、起こさずに帰ります》という内容だった。



そのメールを確認してあたしはホッと息を吐き出した。



歩の寝顔を見ている内についつい眠ってしまったようだ。



大あくびをして部屋の電気をつけると、一階から「ご飯よ!」と言う声が聞こえて来た。



もうそんな時間なんだ。



今日出された課題は何一つ手つかずだ。



まぁいいや。



寝る前に頑張ってやっちゃおう。



あたしはそう思い、部屋を出たのだった。


☆☆☆


家族3人での夕飯を終えて、あたしはリビングに勉強道具を持ってきていた。



夜は見たいテレビがあったことをすっかり忘れていたのだ。



「まぁ、こんな所で勉強するの?」



お母さんそう言われ、あたしは「うん」と、頷いた。



しかし、両親の表情はしかめっ面だ。



あたしの家ではリビングで勉強をしても怒られないけれど、歩の家は違うのかもしれない。



でも、見たいテレビもあるし課題もあるし……。



そう思っていると「テレビを見ながらの勉強はやめなさい」と、言われてしまった。



あぁ、やっぱりダメだったんだ。



あたしはふくれっ面になりそうになるのをグッと我慢し、勉強道具を持って自室へと向かう。



明日誰か課題を写させてくれる友達はいないだろうか?



普段ならカレンが真っ先に課題を見せてくれるのだけれど、あたしは今歩の姿なのだ。



カレンに頼むことは難しい。



歩の友達に課題を写させてくれる人がいればいいけれど……。



そう思ってスマホを手に取る。



その時だった、丁度歩からのメールが来た。



《俺、今からお風呂に入ろうと思うんだけど》



そんな文面に、あたしは思わず吹き出してしまった。



お風呂。



そうか、お風呂くらい入らなきゃいけないんだ。



昨日は体中が傷だらけで1日横になっていた。



だけど今日は学校へも行って汗もかいている状態だ。



《そうなんだ……》



あたしはなんと返事をしていいかわからずに、そんなメールを送信した。



課題とテレビの事なんてあっという間に頭から抜け落ちてしまった。



お風呂に入れば嫌でもあたしの裸を見てしまうと言う事だ。



そう思うと、カッと顔が熱くなるのを感じた。



あたしだってそう、歩の裸を見てしまうと言う事。



今から家に行って歩に目隠しをして背中を流す。



そんな考えが浮かぶけれど、とつぜん同級生の男が押しかけて一緒にお風呂に入るなんてデキル」ワケもない。



《大した体じゃないから、ガッカリさせたらごめんね!》



あたしは明るく、絵文字付のメールを送信した。



歩が気にしてお風呂に入れなかったらかわいそうだ。



あたしは大丈夫。



気にしないで。



そんな雰囲気にさせる必要があった。



しばらくすると《俺の体も大したことないからな!》というメールが返ってきて、あたしはクスッと笑ったのだった。

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