第11話

話を終えて教室へ戻る時、あたしは歩の手を握った。



どうせクラスメートたちにもバラすのだ、少し恥ずかしいけれど、一番わかりやすい方法だと思った。



そのまま教室へ入ると、リナたちのグル―プから悲鳴が上がった。



いつもの黄色い悲鳴ではない。



ショックを隠し切れない悲鳴だ。



そっと横目でリナを見ると表情を歪めて今にも泣き出してしまいそうな顔をしている。



本命は純のくせに、よく泣けるものだと感心してしまう。



あたしは歩の方へ向き直った。



「なにかあったらすぐ俺に言うんだぞ? お前を泣かせる奴は俺が許さないからな」



わざとクラスメートたちに聞こえるような声でそう言った。



念のためだ。



あたしのキザなセリフに再び教室内は女子たちの悲鳴に包まれたのだった。


☆☆☆


それから放課後まで、あたしは気が気じゃなかった。



リナたちがいつ歩に手を出すかと、ずっと見張っていたのだ。



しかし今日は何かが起こると言う事はなく、過ぎて行った。



放課後にはあたしと歩が付き合い始めたという噂が学年を超えて広がっていて、あたしは改めて歩の人気を再確認したのだった。



「今日は一緒に帰ろうか」



歩がそう声をかけて来たので、あたしは素直に立ち上がった。



2人で歩いていると、嫌でも周囲の視線を感じる。



「歩ってすごいね」



思わずそう言うと、歩は首をかしげて「なにが?」と、聞いて来た。



「なんでもない」



あたしはそう言い、歩の手をしっかりと握りしめたのだった。


☆☆☆


それからあたしと歩は、歩の家に来ていた。



1日ぶりの自分の部屋に歩は安心したように息を吐き出した。



「歩のお母さんって、おおらかな人だね」



あたしは女の子を連れてきても顔色1つ変えずにほほ笑んでいた彼のお母さんを思い出してそう言った。



「あぁ。まぁ、後で色々聞かれるかもしれないけどな」



歩はそう言い、ベッドに横になった。



「うちの両親はどう?」



「マホの両親もすごく優しいよ。ケガをした昨日はずっと看病しててくれたし」



そう言われてあたしは嬉しくなってほほ笑んだ。



両親を褒めてくれるのは素直に嬉しいと感じられる。



「なぁマホ。昨日ネットで漫画を読んだんだ」



「漫画?」



「あぁ。入れ替わり系の漫画を何冊か」



「どうだった?」



「入れ替わった時と同じ衝撃で元に戻る内容と、そうじゃない内容があった」



「そうじゃない内容ってなに?」



あたしは聞き返す。



すると歩はベッドから上半身を起こした。



同時にあたしに手を伸ばして体を引き寄せる。



近い距離に思わずドキドキしてしまう。



「キス……するんだ」



歩があたしの耳元でささやいた。



その瞬間、心臓がドクンッと大きく跳ねる。



あたしだってキスの経験くらいある。



だけど、こんな状況で、しかも心が入れ替わってしまった状態で言われるなんて思ってもいなかった。



「もし、マホが嫌じゃなければ、試してみない?」



歩が言う。



漫画の内容なんてちっともあてにならない。



こんな非現実的なことが、キスで治るとは到底考えられなかった。



だけど……「いいよ」あたしは囁くようにそう返事をして、目を閉じていた。

歩の体温がグッと近づく。



自分にキスをされるなんて生まれて初めての経験で、なんだか妙な気分だ。



だけど、唇のフワリと触れたその感触はどこか懐かしく、家庭の香りに涙が出てきそうになってしまった。



たった1日家に帰ってないくらいでなくなんてみっともない。



歩の体が離れたすきにあたしは涙をぬぐった。

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