第4話

あたしは歩を自分の家に案内してから、歩の家へと向かった。



歩の家は石段から更に上へと上がった場所で、丘のてっぺんに位置していた。



丘の上の小さな可愛い家は一体誰が暮らしているのだろうと思っていたけれど、案外身近にその人物がいたわけだ。



あたしはワクワクしながら玄関のドアを開けた。



ずっと憧れていたこの家に入る事ができるなんて、思ってもいなかった。



「ただいま」



そう声をかけて玄関へ入ると、すぐに年配の女性が出て来た。



歩のお母さんみたいだ。



小柄で華奢なその人はひどく心配そうな顔をしている。



「歩、今日は大丈夫だったの!?」



「あ、あぁ。大丈夫だよ」



あたしはぎこちない演技をしながらほほ笑んだ。



「石段から落ちたって聞いて、お母さん心臓が止まるかと思ったのよ」



歩のお母さんはそう言い、白いエプロンの裾をギュッと握りしめた。



「心配かけてごめん。でも、この通り元気だから」



あたしは力こぶを作って見せた。



ようやく、お母さんが笑顔になる。



「そう。それなら安心したわ。今日はもうゆっくり休みなさい。夕飯ができたら呼んであげるから」



「ありがとう」



あたしはそう言い、玄関横の階段を上ったのだった。


☆☆☆


歩の部屋はたしか一番手前の部屋だっけ。



あたしは歩が教えてくれたことを思い出しながらドアを開けた。



ドアの向こうには綺麗に整頓された部屋が現れる。



6畳ほどのフローリングに、勉強机とベッド、中央に丸いガラステーブルが置かれている。



その綺麗さにあたしは思わず「げ」と、呟いた。



男子の部屋がこんなに綺麗だとは思っていなかった。



朝大慌てて出て来たため、汚れたままの自分の部屋を思い出してため息をはく。



こんなことになるなら多少遅刻しても部屋を綺麗にしておくんだった。



そう思うけれど、もう遅い。



歩はあたしの散らかった部屋を目の当たりにしてしまった事だろう。



「最悪」



あたしはそう呟き、ベッドに腰を下ろした。



折り畳み式のパイプベッドがあたしの体重で、ギシッと悲鳴を上げた。



歩は結構几帳面な性格なんだな。



ほとんどホコリも見られない部屋に、あたしはそう思う。



その時だった、あたしは体に異変が起こるのを感じていた。



一瞬にして冷や汗が吹き出し、顔がカッと熱くなるのを感じる。



「どうしよう……トイレ行きたい」



あたしはそう呟き、部屋の中をぐるぐると回る。



そういえば歩はトイレはどうするんだろう?



もちろん、出すものはちゃんと出さなきゃ体に悪いし、我慢するのだって限界があると知っている。



でも、今あたしたちは入れ替わってしまっているのだ。



このままトイレに入ると言う事は……想像しただけであたしの体は熱くなった。



「ど、どうしよう」



突然訪れた尿意はどんどん強くなって行き、立っているのもつらくなってくる。



このままじゃ漏らしちゃう!!



そう思ったあたしは大急ぎで部屋を出て階段を駆け下りた。



トイレの場所は一階の脱衣所の手前!!



歩の言葉を思い出してドアを思いっきり開ける。



使い慣れた洋式トイレにホッとしてズボンをおろし、座った。



あれ?



このやり方でいいんだっけ?



男子トイレにはたしか小便器があったはず……。



男子ってトイレは立ってするんだよね?



でも立っていれば嫌でも歩のソレを見てしまうと言う事で……だめ、限界。



色々考えている余裕なんてなくて、あたしは座ったまま用をたしたのだった。


☆☆☆


トイレに行くと言う大イベントを終えたあたしは、歩の部屋に戻って半分放心状態になっていた。



結局、座ったままでも問題なくできた。



それはそれでよかったのだけれど、毎日こういう事をしなくちゃいけないのかと思うと、途端に疲れてしまったのだ。



それに、トイレにいくのはあたしだけじゃない。



歩だってそうだ。



お風呂に入る必要だってある。



そう考えると、顔がカッと熱くなった。



あたしは嫌でも歩に自分の裸を見られてしまうと言う事だ。



「どうしよう……」



あたしはそう呟き、ベッドに顔をうずめたのだった。

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