第40話
あたしは『そんなわけないじゃん』と、笑顔を作った。
仕方ないよね。
合わせておかなきゃ明日にはあたしがイジメられるかもしれないんだから。
千恵美だって、あと少しで卒業なんだからきっと大丈夫だよね。
高校はみんなバラバラなんだから。
心の中で色々な言い訳をして、あたしは美世の手伝いをしたんだ。
数時間後、あたしたちは体育館裏に移動して来ていた。
影に隠れて千恵美が現れるのを待つ。
『今日って結構寒いね』
音が白い息を吐いてそう言った。
『夜から雪が降るって言ってたからね。あ、来たよ』
美世がそう言いニヤリと笑う。
千恵美がラブレターを片手に持ち、歩いてくるのが見えた。
誰もいない校舎裏に、キョロキョロと周囲を見回している。
『あんな手紙本気にして、バッカみたい』
美世がそう言って笑った。
『行くよ』
それを合図にしてあたしたちは千恵美を掃除道具入れへと押し込めたのだった。
それ以降、千恵美は学校に来なくなった。
あと少しで卒業なんだから、我慢して来ればいいのに。
そう、思っていた……。
「千恵美はあの日自力で掃除道具入れから出ようとしたんだ」
千恵美のお父さんがあたしを見おろしてそう言った。
体育館裏にある掃除道具入れは、体育館やグラウンドの清掃具が置いてあるためとても広かった。
部屋の中には小窓がついていて、光も差し込むようになっている。
「バケツを逆さまにしてその上に乗って、窓から出ようとした」
あたしは掃除道具入れにあった青いバケツを思い出していた。
通常のバケツよりも一回り大きなサイズだ。
でも、千恵美の身長を考えると窓には手が届かなかっただろう。
「外の気温はどんどん下がって行く。暖をとれるものはなにもない。千恵美は必死だった」
お父さんの言葉にあたしは顔を上げる事ができなかった。
どんな気持ちで閉じ込められていたのか。
ここに監禁されたあたしには、それがよくわかった。
恐怖。
それだけが頭の中にあったのだろう。
「色んな物を積み上げてようやく窓枠に手が届いた。でも、次の瞬間……千恵美はバランスを崩して落下していたんだ」
「え……」
記憶がよみがえる。
あの夜、家に戻って漫画を読んでいた時救急車のサイレンが聞こえてきていたこと。
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