第32話

そこまで千恵美のことが嫌いだったなんて思ってもいなかった。



教室内にはあたしたち3人しかおらず、音と美世の悪口はエスカレートしていく。



あたしはおどおどと相槌を打っていただけだった。



「ああいう時は即答しなきゃダメだよ」



音にそう言われたのは数日後のことだった。



「え?」



「美世のこと。あの子を敵に回したらあたしたちまで悪者にされるんだから」



誰もいないトイレの中、音がそう言った。



「そうなんだ……」



「そうだよ。美世は女王様なんだから、女王様の機嫌を損ねちゃダメ」



それから、あたしたちは美世にべったりとくっつくようになってしまった。



女王様の機嫌を損ねないため、悪口はすべて同意した。



一緒にいることは正直精神的に辛かったけれど、それでも利点の方が大きかった。



あたしと音は見る見る有名人になったのだ。



学校内での生活が一変し、楽しくなった。



近づいてくる友人たちはみんな美世に近づきたい子ばかりだったけれど、それでも一目置かれているというのは心地よかった。



そしてだんだん美世の言う事は絶対になってきていた。



クラス内はもちろん、他のクラスの子でさえ美世の周りに集まって来る。



「千恵美ってさ、本当にウザイよね」



美世が一言そう言えば、全員が千恵美を疎ましがった。


最初は2人とも人気があったのに、今では千恵美を良く言う生徒は1人もいなくなっていた。



そしてついに、千恵美へのイジメが始まったのだ。



最初は直接暴言を吐く程度だった。



けれど、イジメの仲間が多いのですぐにエスカレートして行った。



机のラクガキ、教科書やノートをゴミ箱へ捨てる、体操着を切り刻む。



他にも沢山の事をやってきた。



その中で、あたしたち3人は千恵美の盗撮も行っていた。



千恵美の体育館シューズを隠し、それを探すため1人遅れて更衣室へ入った千恵美。



そのタイミングで更衣室へ押し入り、下着姿を撮影したのだ。



あの写真がある限り、あたしたちの立場は千恵美よりも上のはずだった。

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