第33話
~スミレサイド~
そのまま朝になっていたようだ。
覆面男がパンと牛乳を持って来たことで、それがわかった。
「あんたさ、千恵美の関係者でしょ」
あたしは覆面男へ向けてそう言った。
少しは動揺を見せるかと思ったが、男は相変わらず何も言わない。
動揺しているようにもみえなかった。
「返事くらいしてくれてもいいじゃん」
部屋を出る背中へ向けてそう言う。
男が無言のまま振り向いた。
またパンを口に詰め込まれるのかと思い、身構える。
しかし、男はそのまま部屋を出たのだった。
☆☆☆
出されたパンと牛乳をどうにかお腹の中におしこんだ。
食欲なんて少しもなかったけれど、食べないと死んでしまう。
今日は一体なにをさせられるんだろうか?
昨日と同じようにスマホの取り合いだろうか。
そう考えている間に再び覆面男が部屋に現れた。
食器を片付けるのだと思っていたら、髪の毛を掴ませ引き起こされた。
「痛いじゃん!」
鷲掴みにされた頭皮がビリビリと痛む。
「歩け」
機械を通した声でそう言う男。
歩けと言われても拘束されているため、飛ぶように移動することしかできない。
あたしは仕方なく飛び跳ねながら部屋を出た。
「今日もあの部屋に行くの?」
後ろからついてくる覆面男へ向けてそう聞いた。
しかし、男は返事をしない。
必要最低限のことしか話さないようだ。
「黙ってたって、あんたの正体はだいたい検討がついてるんだからね。ここから出たら絶対に警察に突き出してやる!」
暴言を吐いていると、昨日の部屋に到着した。
ドアが開けられるとそこに美世が座っているのが見えた。
顔を包帯でグルグルに巻かれている。
「美世!?」
「……スミレ……」
カラカラに乾いた声の美世にソクリと背中が寒くなった。
昨日まで普通だったのに、こんなにも変わってしまうのだ。
「美世、大丈夫?」
そう言って美世の隣まで移動したけれど、美世は視線を合わせてくれなかった。
昨日、あたしと音で美世を裏切ったからだろう。
「昨日はごめんね。でも、ああするしかなかったの。ほら、美世は学校でも女王様だったでしょ? だから少しはあたしたちの為に動いてほしくて」
早口で言い訳をしてみても、美世は無反応だ。
あたし達のせいで顔の表面を剥がされたのだから、当然だった。
あたしは美世との会話を諦めて音が入って来るのを待った。
音ならきっと話を聞いてくれる。
また3人でゲームをするのなら、2人で協力して美世を敵に回せばいい。
そう思っていたのに……。
次に部屋のドアが開いた時、そこに立っていたのは覆面男だった。
肩に何かを担いでいる。
なに……?
その何かは制服姿をしていて、本能的に嫌な予感がした。
思わず目をそらせてしまいそうになる。
覆面男が肩に担いでいたそれを乱暴に床におろした。
ゴトンッと鈍い音を立ててそれが転がる。
その瞬間、見開かれた音の目と視線がぶつかった。
異常なくらい白い肌。
生きていないことはひと目でわかった。
「いやぁ!」
悲鳴を上げ、口をふさぐ。
音の左手首には深い傷ができていた。
美世も音の死体に唖然としている。
「音……なんで!?」
昨日壁を蹴っても返事がなかったことを思い出す。
あの時、音はすでに死んでいたのかもしれない。
1度だけあって来た返事、あれが音の最後の言葉だったんだ!
「昨日自殺した」
覆面男がそう言った。
自殺……!
音の家は資産家だ。
問題ごとなんて起こせば家ごと崩壊してしまうかもしれない。
音はそれを恐れたのかもしれなかった。
家に迷惑をかけるくらいなら、自殺を選ぶ。
こんな隔離空間で自殺をするなんて、音の決意は強かったのだろう。
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