第31話

~スミレサイド~


あの部屋で見せられた動画の内容を思い出していた。



どれもこれも、千恵美を落とし入れるために美世が行動したことばかりだった。



美世は他にも色々な生徒をイジメたり奴隷扱いをしてきたのに、どうして千恵美に関する動画だけなのかと、疑問に感じていた。



でも、答えは簡単だった。



あたしたちをここへ誘拐してきた犯人が、千恵美の関係者だからだ。



それを音にも伝えたかったのだけれど、動画を再生されている間はずっと覆面男たちがいたので伝える事ができなかった。



音の様子を見ているとその事に気が付いた様子もなかった。



知らせなきゃいけないと思い、何度も何度も壁を叩く。



さっき1度だけドンッと返事が来たけれど、それ以降返事はなかった。



眠ってしまったのかもしれない。



あたしは諦めて横になった。



美世が顔を削られるという悲惨な場面を見てしまったけれど、あたしの心は自信に満ちていた。



相手が千恵美ならあたしたちに勝ち目があるということだ。



あたしたち3人は、千恵美の弱味を握っているからだ。



「千恵美なんかに好きにはさせない」



あたしはそう呟いたのだった。


☆☆☆


それは中学に入学してすぐの頃だった。



同級生にとても可愛い子がいると噂になった時期があった。



あたしは好奇心でそのクラスに様子を見に行った。



そこにいたのが、千恵美と美世だったのだ。



「可愛い方ってどっち?」



あたしはそのクラスの子に訊ねた。



「2人ともだよ」



そう言われてよく確認してみると、確かに2人ともとても可愛い。



けれど千恵美の方がどこかおどおどした様子で、美世の方は自信満々な表情を浮かべていた。



2人の性格は正反対だったのだ。



最初の頃は2人とも可愛いということで、千恵美と美世は2人で行動することが多かった。



特に美世から千恵美へ近づいて行っているようだった。



1人より、2人でいた方が注目されるからだろう。



けれど、その関係が崩れるのは簡単だった。



元々性格も正反対な2人、千恵美が先輩に告白された事を美世が良く思わなかったのだ。



中学に入学して告白されるのは自分が先だと、勝手に思い込んでいたのだ。



それから美世は千恵美を避けるようになり始めた。



2人の関係が壊れてしまったのは目に見えて理解できた。



けれど千恵美は平気そうだった。



もともと派手なタイプではない千恵美は、1人になったことで自由になれたのだ。



それが更に美世を怒らせる結果となった。



美世は周囲の友人たちにあることない事を吹き込みはじめたのだ。



丁度動画で見たように、無理やり証拠をでっちあげる事も多々あった。



千恵美はそんな噂に耳を貸さず。いつもマイペースに過ごしていた。



けれど友人たちは千恵美から徐々に離れ出していた。



千恵美は噂に耳を貸さない上に、言い訳をしようともしなかったからだった。



美世の言っていることが本当なのか嘘なのか、判断しかねた友人たちが千恵美の傍から消えて行った。



千恵美が教室内で孤立するのは時間の問題だった。



さすがに少し辛そうな顔をしていたけれど、千恵美の変化はそれだけだった。



陰口をどれだけ言われても自分を崩さない千恵美。



そんな千恵美を見ていて、美世がついに我慢できなくなったのだ。



「あいつ、本当にムカつくよね」



ある日、あたしへ向けてそう言ったのだ。



2人のことはよく知っていたけれどクラスも違うし、返事に困っていた。



その時近くにいた音がすぐに返事をしたのだ。



「そうだよね。暗いし」



そう言って笑う音。



「だよね! 本当、消えてくれないかなぁ」



美世の言葉にあたしは驚いた。

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