第25話

そう言った音が動いた。



美世の足を蹴り、美世はその場に横転した。



その瞬間美世が持っていたフォークが手から離れ、床を滑る。



その隙に美世の体に馬乗りになった。



「どれだけ見た目が綺麗でも、限界はある。年をとればその分見た目は崩れて行く。かわいそうだね、美世」



音が美世を見おろしてそう言った。



あたしはナイフを握りしめて美世へ近づいた。



「知ってる? 年をとるだけじゃなくて、こうして傷つけても見た目は変化するんだよ?」



ナイフを動かし、わざと光に反射してみせた。



美世は青ざめ、恐怖の顔をあたしへ向けている。



クラスでは女王様気取りだった女のその姿は、見ていてとても愉快だった。



時にはクラスメートを奴隷のように扱っていた美世。



その性格は、高校に入学した後も変わっていないと聞いたことがあった。



「どうする? 美世」



あたしはナイフの刃を美世の頬に押し当てた。



ここに法律はないと言っていた。



このまま美世のことを殺しても、罰せられる事はないのだ。



中学時代の美世の態度を思い出すと、だんだんと胸の奥から怒りが湧いてくる。



「殺してやろうか?」



あたしは美世の耳元でそう囁いた。



頬に当てたナイフにグッと力を込めると、一筋の血が流れ出て来た。



「やめて……!」



美世がか細い声で叫ぶ。



体はガタガタと震えていて目には涙が浮かんでいる。



「美世が助けてって言ってるのに、誰も来ないね」



音が楽し気に笑いながらそう言った。



「学校ではあれだけ女王様だったのに、美世って裸の女王様だったんだね」



今更自分が裸だと気が付いても、もう遅い。



あたしはナイフをスッと引いた。



浅く皮膚が切り裂かれて行く。



美世の顔が面白いくらいに歪んでいく。



「あたしのスマホ、盗っていいから! だからやめて!」



美世が叫んだせいで刃が奥まで食い込んだ。



肉を切る感触が手に伝わって来る。



美世は唸り声をあげて顔をしかめた。



「あ~あ、本当に変な顔になっちゃった」



あたしはそう言い、ナイフを戻した。



鮮明な血がナイフにこびり付いている。



音が美世のスカートのポケットからスマホを取り出した。



美世はなにも言わず、ただ震えている。



音に近づき、美世のスマホを確認してみると、バリカンで髪の毛を切られて行く美世の姿が写っていた。



必死に抵抗している姿が痛々しい。



「奪ったよ」



音が美世の体から立ち上がり、モニターへ向けてそう言った。



美世は起き上がる気力もないのか、切られた頬を押さえてうずくまっている。



モニターが光り、画面上に覆面男が現れた。



「どうして殺さなかった?」



それはあたしへ向けた言葉だった。



「どうしてって……」



あたしはうずくまったままの美世を見おろした。



まだ顔色は悪いままだ。



「そこまでする必要がなかったから」



「まぁいい。今回は最初のゲームだからな」



覆面男はそう言い、モニターは途切れてしまった。



「なんなの?」



音がモニターを見つめてそう呟いたのだった。

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