第26話
~イズミサイド~
数分後、3人の覆面男たちが部屋の中に入って来た。
1人が美世を部屋から連れ出し、あたしと音はまた手錠で拘束されていた。
「あたしたちはスマホを奪った。勝ったんだから解放してよ!」
そう言っても男たちは返事をせず、あたしと音を椅子に座らせた。
今度は2人でスマホの奪い合いをさせられるんだろうか?
そう思っていると、再びモニターに明かりが灯った。
見覚えのある校舎が映し出されている。
「ここ、中学校だね」
音がそう言った。
「うん」
そうだ。
あたしたち3人が通っていた中学校で間違いない。
休日なのか放課後なのか、校舎内に人の影はない。
カメラはどんどん進んで行き、3年B組の前で止まった。
「このクラス、あたしたちがいたクラスだ」
あたしはそう言った。
あたしも音も美世も、このクラスだった。
カメラはドアの前で一旦止まり、中の様子を確認しているようだった。
少しドアが開きそこから中の様子が映し出された。
その瞬間、あたしはハッと息を飲んでいた。
教室内にいるのは美世と冬夜の2人だ。
「2人とも、この頃から付き合ってたっけ?」
音の質問にあたしは左右に首を振った。
「ううん。たしかこの時ってさ……」
そこまで言った時、画面上の2人の会話が聞こえて来た。
「千恵美なんてやめなよ」
甘ったるい美世の声だ。
「どうしてそんなこと言うんだ?」
冬夜は怪訝そうな表情を美世へ向けている。
そうだ。
この時冬夜は美世のことなんて好きじゃなかったんだ。
学校の中でも、唯一美世に媚びない男子生徒だった。
だからこそ、美世は冬夜のことが気になりはじめていたんだ。
「だってあの子、すごいことしてるんだよ?」
「すごいこと?」
「援助交際」
美世の言葉に冬夜が目を見開いた。
「そんなこと、千恵美がするわけないだろ」
「なんでそう言い切れるの?」
「俺と千恵美は幼馴染だ」
「それなら、あたしと冬夜だって幼馴染じゃん」
美世の言葉にも冬夜は動じない。
「お前とは違う。ただ知ってる関係ってだけだ」
冷たい声の冬夜。
美世へ向けてここまで反抗的な態度をとる男は、なかなかいないかもしれない。
美世はムッとした顔で冬夜を見つめる。
「俺、もう行くから」
そう言って冬夜がこちらへ向けて歩き出した。
カメラは慌てて離れて行き、画像はそこで途切れた。
「今のってどういう意味なんだろう」
あたしはぽつりとつぶやいた。
「きっと、冬夜は千恵美を好きだったってことだよね」
「なら、どうして美世と付き合ったんだろう」
「知らないよそんなの。冬夜と付き合ってるスミレの方がよく知ってるんじゃないの?」
嫌味を込めてそう言われ、あたしは黙り込んでしまったのだった。
☆☆☆
それから数分して、ふたたびモニターの明かりが灯った。
今度は知らない景色だ。
その中に後ろ姿の少女が写っている。
「これって美世だよね?」
音がそう言った。
そう言われればそうかもしれない。
中学の制服を着ているから、あたしたち3人のうちの誰かということなんだろう。
「じゃあ隣に歩いてるのが冬夜?」
あたしはモニターを見てそう言った。
美世と思われる少女の隣には男子生徒が歩いている。
2人は手を繋ぎとても仲が良さそうだ。
その時、カメラが2人を追い抜いた。
そして正面から2人を捕らえる形になる。
少女の方が美世で会っていたが、男子生徒の方は冬夜ではなかった。
「これ、後輩だね」
音が言った。
「そうだね。サッカー部のエースだった子」
カッコいいと有名になっていたから、その顔は覚えていた。
2人はキスをして別々の道を歩き始めた。
「美世ってこの子と付き合ってたんだね」
音がそう言った時、美世の前にスーツ姿の男が現れた。
今度は見たことのない顔だ。
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