第23話
モニターの中だから、3人の内の誰なのかはわからない。
「これからお前たちには、お互いのスマホを奪い合ってもらう」
相変わらずの機械音で、男はそう言った。
あたしはスカートの中に入れているスマホを指先で確かめた。
ここに来る前、それぞれが渡されたスマホだ。
「その前に、部屋の入り口にある箱を開けろ」
そう言われて、あたしたち3人は同時に振り向いた。
入口の横に大きな段ボールの箱が置かれている。
「なにが入ってるんだろう……」
一番近くにいた音が段ボールにそっと近づいた。
なにがはいっているのかわからないので、あたしと美世も警戒しながら近づいていく。
「心配しなくていい。その中にあるのはお前たちに必要なものだ」
モニター越しにそう言われ、この部屋が監視下にあることがわかった。
軽く舌打ちをして段ボールを開ける。
そこには真新しい制服が2着、下着が1着、ウィッグが1つ入っていた。
それを確認してあたしはモニターへ向き直った。
「着替えは隣の部屋でできる」
男はそう言い、モニターは暗闇に包まれた。
「着替えろってことでしょ」
そう言って音が制服を手に取った。
音が通っている高校の制服だ。
「あたしはこれだよね」
美世がウィッグと手に取ってそう言った。
残っている下着と制服はあたしの分のようだ。
相手が用意した物に身を包むのは気持ちが悪かったけれど、アンモニアの匂いは気になっていた。
隣の部屋に移動すると、人が1人は入れるくらいの小さなスペースがあった。
豆電球の明かりと姿見があるだけだ。
あたしは手早く着替えをして、元々着ていた物は段ボールの中に入れた。
「このウィッグ可愛いじゃん」
毛先がフワリとカールしたウィッグを付けた美世は、どこか上機嫌だ。
髪さえあれば可愛くなれるからだろう。
3人の準備が終ったタイミングで、再びモニターが作動した。
「準備はいいな。ルールは簡単だ。ただ相手のスマホを奪うだけ。その部屋の中に法律はない。なにをしてもいい」
淡々と説明していく男に、あたしたちは顔を見合わせた。
「法律はないってどういう意味?」
美世にそう聞かれて、あたしは首を傾げた。
覆面男の言っていることの意味はよくわからない。
けれど、とにかくスマホを奪えばいいんだろう。
「このスマホを奪ったら、相手はどうなるの?」
音はモニターへ向けてそう聞いた。
男は低い笑い声を上げる。
「それは見てのお楽しみだ」
それじゃ全然ルール説明になっていない。
スマホを奪った人がどうなるのか、奪われた人がどうなるのか説明してくれないと……。
そう思ってモニターを見つめていた時だった。
頭に強い衝撃を受けて横倒しに倒れていた。
何が起こったのか理解できなくて、倒れたまま天井を見上げる。
次に痛みが襲ってきて頭を押さえた。
ヌルリとした感触が手に伝わって来て、手のひらを確認してみる。
「血……?」
それが血であると理解するまで、また数秒かかってしまった。
目の前にはあたしを見おろしている音がいる。
その手には個の部屋に飾られていた花瓶が握られているのが見えた。
「音……?」
「あんた、冬夜とデキてるでしょ」
音が肩で呼吸をしながらそう言って来た。
「え?」
唖然として音を見つめる。
痛みと混乱で頭が上手く働かない。
とにかく、寝転んでいる暇はないと思い、どうにか体を起こした。
ふらつきながらも、なんとか両足で踏ん張る。
「それ、どういうこと?」
美世からの質問に、思わず青ざめた。
どうして音があたしと冬夜の関係を知っているんだろう。
ずっと、上手に隠してきたハズだったのに!
「違う。そんなことしてない」
あたしは左右に首を振ってそう言った。
けれど体中から嫌な汗が噴き出している。
「何言ってんの音。なにか勘違いしてるんじゃない?」
ドクドクと心臓が脈打っている。
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