第19話

~スミレサイド~



覆面男が再び部屋の中へ入って来たのは、壁のやりとりをはじめて数時間が経過した頃だった。



「今度はなに!?」



あたしは警戒し、覆面男から距離を置いてそう叫んだ。



男は無言であたしに近づいてくる。



「もう変なことはしないでよ!」



またあんな動画を撮られるなんて絶対に嫌だった。



これ以上、この男の好きにはさせない。



そう思っていると、男があたしの目の前にスマホを画面を突き付けて来た。


画面上では何かの動画が流れている。



なんだろう?



ジッとそれを見ていると、中学時代の友人、村杉音の姿がうつり込んできた。



「音……?」



音は中学校の制服を着て、女子更衣室へと入って行く。



どうやら他の生徒たちは体育の授業を受けているようで、更衣室の中には制服が置かれていた。



「なにこれ、更衣室を盗撮してるの!?」



あたしがそう言うが、男は何も言わない。



続けて動画を見ていると、音が誰かの制服の前で足を止めた。



その制服に手を伸ばす音。



カメラは更に近づいて行き、制服のネームを映し出した。



美世の名前が書かれている。



中学時代の友人の名前だ。



音はそれを素早く紙袋に入れて、更衣室から逃げ出した。



「美世の制服をどうするんだろう……」



そう呟き、そう言えば美世が制服がなくなったと騒いでいた時があったのを、思い出していた。



動画は一旦真っ黒になり、次の場面を映し出していた。



紙袋を持ったまま学校の校舎裏へ向かう音。



そこには2人の男子生徒が待っていた。



見たことのない生徒だ。



「持って来てくれた?」



そう聞く男子生徒に、頷く音。



「これが美世の制服だよ」



男子生徒は紙袋の中身を確認すると、頬を赤らめた。



「ありがとう」



そう言い、音に一万円札を数枚手渡したのだ。



「次は美世ちゃんの体操服を頼むよ」



「わかった。連続で盗むと怪しまれるから、また今度ね」



動画はそこで途切れていた。



「最低」



思わずそんな声が漏れた。



美世は学校内のアイドル的な存在だった。



音は美世の事をうとましく感じていたようだけれど、あたしはそうでもなかった。



一応音に合わせて悪口を言う事はあったけれど、どうして音が美世を嫌うのか理解できなかった時もある。



「3人の中で一番真面なのはお前だけだった」



覆面男が機械音でそう言った。



「あなたはあたしたちを知ってるの?」



そう聞くと、男は何も言わずに部屋を出て行ってしまったのだった。

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