第18話
~美世サイド~
冬夜と一緒に過ごす夢を見ていた。
あの狭いアパートの一室で、2人で並んで歯磨きをする。
もう当たり前になりつつあった光景に、涙が出そうになる。
「なに泣いてんだよ」
「だって……」
呆れ顔の冬夜にあたしは涙をぬぐった。
本当にどうしてこんなに涙が出て来るんだろう。
この当たり前の幸せをずっとずっと望んでいたような気がする。
「ほら、タオル」
冬夜が差し出してくれたタオルを受け取ろうとした、次の瞬間。
冷たい水の感触に目を覚ました。
驚いて一瞬呼吸が止まる。
目の前にはバケツを持った覆面男が立っていて、数秒かかって事態を把握した。
あたしが眠っている間に部屋に入って来たんだろう。
「もっと普通に起こせないの」
あたしは覆面男を睨み付けてそう言った。
覆面男は相変わらずなにも言わず、横になった状態のあたしにスマホの画面を突き付けて来た。
画面上には動画が流れている。
「なに? 音とスミレの2人……?」
流れているのは中学時代の友人2人の姿だった。
動画の中の2人は中学の制服を着ている。
「美世って調子乗り過ぎだよね」
音がスミレへ向けてそう言った。
「わかる。ちょっと可愛いからって女王様みたい」
スミレがそう言い、声を上げて笑った。
「別に美世の顔が好きて一緒にいるワケじゃないのにね。美世のお父さんって芸能事務所のコネがあるらしいじゃん。いつか芸能人に会えたらいいなって、ただそれだけだよね」
「わかる。美世のお父さんがいなかったら美世なんかと仲良くしてないよね」
そう言って2人同時に笑い始めた。
初めて聞く2人の本音にあたしは言葉が出なかった。
中学時代、あたしは2人ととても仲が良かった。
ずっと一緒にいたし、それが当たり前だと思っていた。
「2人とも……」
心に鈍い痛みが走る。
友達なんていくらでもいるのに、どうしてこんなに胸が痛いのか自分でも理解できなかった。
あたしはみんなの人気者。
それなのに、こいつらは影であたしのことを笑っていたんだ。
「なんでこんな動画持ってんの」
覆面男にそう聞くと、男はスマホを閉じてあたしを見た。
「お前なら、きっとこいつらに復讐できる」
機械を通した声がそう言い、男は部屋を出て行ってしまったのだった。
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