第12話
~スミレサイド~
どうにかバスタオルで床を拭いたあたしは、無気力なまま床に寝転んでいた。
相手の目的がなんなのか本当にわからなくなってきた。
あたしの家は裕福じゃない。
見た目だって、別に普通だ。
放尿するシーンを撮影されたと言う事は、そういうマニアックな人向けの作品を作る事が目的なんだろうか?
そうだとしても、どうしてあたしが選ばれたのかがわからない。
なにが起こっているのかわからない事への恐怖で、涙が止まらなくなっていた。
次から次へと溢れ出て来る涙はまるで泉のようだ。
ジッとドアを見つめていても、誰も入って来ない。
疲れから少しウトウトすることはあっても、ちゃんと眠ることはできなかった。
さっきから胸の動悸も治まらない。
今度はいつ、なにをされるかわからないというのが、一番怖かった。
体を丸めてひたすら時間の経過を感じていることしかできない。
頭に過るのは最悪の事態ばかりだった。
いっその事気絶できれば楽になれるのに。
そう思った時、再びドアが開いた。
白い光に目を細めてドアの向こうに立つ覆面の男を見る。
男の手には食パンと牛乳が用意されていた。
ここにきてから何時間経過したのかわからないけれど、2度目の食事だった。
あたしは覆面男がテーブルに食べ物を置いて出て行くのをぼんやりと見つめる。
こうして食事が与えられると言う事は、殺す気ではないのだろう。
あたしはしばらく横になっていたが、ゆっくりと上半身を起こした。
体中がズキズキと痛む。
体を引きずり、テーブルの前まで移動した。
さっきのパンには毒は入っていなかった。
今回もきっと大丈夫だろう。
そう思い、先に牛乳に手を付けた。
ストローを口にくわえて吸い込む。
数時間ぶりの水分に体がくらいついて行く。
コップの中の牛乳は瞬く間になくなってしまった。
牛乳をこれほど美味しいと感じたことはなかった。
それから顔を近づけてパンにかぶりついた。
手は使えないから、まるで犬のように食べるしかできない。
屈辱的な気分だったけれど体力の消耗は避けたかった。
タイミングがあれば絶対にこの部屋から脱出してやるんだ。
その思いだけで、用意された物をすべて食べきった。
無駄に餓死なんてしない。
これから先どれだけ苦しんでも、自分から死ぬようなことは絶対にしない。
あたしは壁にもたれかかるようにして座った。
食べたことで少し落ち着けた気がする。
あらためてグルリと部屋の中を見回してみた。
6畳ほどの空間。
テーブルと裸電球以外になにもない。
ドアは2つ。
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