第6話
~美世サイド~
あたしの1日は彼氏の声で始まる。
「起きろよ美世(ミヨ)」
そう言われてあたしは薄目を開けた。
ベッドよこの窓から朝日が差し込んでいて眩しい。
「おはよう冬夜(トウヤ)」
すでに制服に着替えている大和田冬夜へ向けて相違声をかけた。
「お前寝すぎだから」
冬夜はそう言って笑った。
冬夜とあたしは幼馴染で中学3年生の頃から付き合っている。
高校に入学した時に両親の了解のもと一緒に暮らし始めたのだ。
家賃4万円の狭いアパートがあたしと冬夜の愛の巣だった。
「朝は苦手だって冬夜もよく知ってるでしょ」
あたしはそう返事をしながら起き上がった。
まだ体は眠たがっていて、とても重たい。
けれど早く準備をしないとまた遅刻してしまう。
「知ってるけど、千恵美(チエミ)ならもっとちゃんと起きるぞ」
冬夜の言葉にあたしは顔をしかめた。
「なんで今千恵美の話しになるの」
素敵な朝なのに他のお何の名前なんて聞きたくない。
「お前と千恵美じゃ大違いってこと――」
「うるさい!」
冬夜が話すのを遮ってあたしはそう怒鳴った。
枕を投げつけて睨み付ける。
「なんだよ。どうしてそんなに怒ってるんだよ」
困惑している冬夜。
「千恵美って名前は世界一嫌いなの」
あたしはそう言い、冬夜から顔をそむけたのだった。
☆☆☆
朝から彼氏と喧嘩をしても、学校に登校したあたしは上機嫌だった。
なにせこの学校にあたし以上に可愛い子なんていない。
あたしはこの学校のお姫様だった。
「ねぇ、喉乾いた」
あたしが一言そう言うと、必ず誰かが動いてくれる。
時には数人同時に動いて同じ物が何個も運ばれてくることもあった。
あたしがそうしろと命令しているワケじゃない。
みんなが勝手にあたしに従っているだけ。
こんなに気分がよくなる場所は他にはなかった。
「なんか足がむくんできたぁ」
そう言うと、あたしの席に集まって来た子たちが一斉に後ろを向いた。
そこにいるのはクラスで1番大人しい女子生徒だった。
彼女の名前は……なんだっけ?
思い出せない。
そこに座っているだけで雰囲気が暗くなるその女子生徒を見て、みんながクスクスと笑い始める。
あたしは何もしていない。
みんなが勝手にしてるだけ。
彼女はおずおずと席を立ち、あたしに近づいて来た。
「なに?」
そう聞くと、彼女はあたしの目の前で四つん這いになった。
その姿にクラスメートたちがどっと笑った。
「あ……足を乗せてください」
顔を伏せた状態でそう言う彼女。
「え、いいの?」
あたしはわざとらしくそう聞いた。
彼女は頷く。
「じゃあ、遠慮なく」
あたしはそう言い、靴をはいたまま彼女の背中に自分の両足を乗せた。
彼女の体が小刻みに震えている。
歯を食いしばっている横顔がとても可愛そうだ。
だけどあたしが強要したワケじゃない。
「あんたってまるで奴隷みたいだね」
あたしがそう言うと、また笑い声が沸き起こったのだった。
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