第5話

でも、あたしが誘拐される理由はあった。



お金だ。



祖父のお金は1年間で何億という単位で動いているらしい。



それならすでに家に連絡はいっているかもしれない。



が、愛情が薄い自分の家を思い出すとすぐにお金を出すかどうか疑問だった。



あたしのことなんて誰も心配していないかもしれない。



そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。



両親が無理でも、祖父なら動いてくれるかも……。



そう思っていた時だった。



テーブルの向こう側にあるドアが開いた。



白い光が差し込んできて、目を細める。



そこに立っていたのは黒い覆面を被った男だった。



男の手にはパンと牛乳が持たれている。



あたしは壁に背中を押し付けるようにして、どうにか上半身を起こした。



「お金なら沢山あるよ。村杉グループの孫だから、あたしを誘拐したんでしょ?」



そう声をかけると、男はチラリとあたしへ視線を向けた。



しかし何も言わず、持って来た食べ物をテーブルに置くとそのまま部屋を出て行ってしまったのだった。

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