第4話_ガーゴイルとコンビーフ(弐)

口を閉じていた方のガーゴイルの表情が変わる。


「兄ちゃん。なんか肉みてえな匂いがするよぉ。」

「おい。その口調は門番やってるときはダメって怒られただろうが。」


口を開いていた方のガーゴイルが答える。


「食っていいのか。これ。」

「だから聞けよ。門番をやってるんだぞ。私達は。」

「だってよ。無言で門の前に立つのは誰でもできるだろ。」

「私達はガーゴイルなんだぞ。元も子もないこというんじゃない。」

「とりあえず食べちゃっていいかな。誰も食べないだろうし。」

「おい。やめろ。」


どうやら兄弟だったらしい。

漫才みたいなやり取りが笑いを誘う。


「食べれるけど、お腹壊すかもしれないよ。」


「大丈夫。雑食だから。」

「そっちの意味じゃない。」


「君たち名前は何て言うんだい。」


「僕はガラだよ。兄ちゃんはゴロ。」

「知らない人に門番が挨拶をしてどうする。」


「まだ缶詰があるんだ。円柱のやつ。」


「兄ちゃん。行ってきていいかな。」

「ガラだけ行けるわけないだろ。」


「ギルマスに相談してくるよ。」

「そうだな。頼むよ。」


ゴロも口では正論を述べている.

本音は缶詰を食べたいらしい。燃え尽きた缶詰をみている。

ガラは喜びながらギルドに入り、

少しして満面の笑みで戻ってきた。


「行っていいってさ。」

「すんなりと受け入れられたな。」

「ギルマスが異世界転移者に興味があるんだって。」


「ギルマス」という言葉は分からないが、

なんとかなりそうだな。


「来た道を戻ろうか。」

「転移者は知らないんだね。一瞬で移動できるよ。」


ガラは呪文を唱えだした。

何か忘れている気がするが、どうでもいいな。

ガーゴイルの兄弟と私は光に包まれる。

物陰からゴブリンが駆け寄った。


「おいらも連れていってくれよ。」


火の玉を投げただけの者に情はかけない。


「おまえは歩くんだな。」

「何したってんだよ。」

「自分の胸に手をあてて、考えるんだな。」

「ドクドクしてるだけだよ。」

「・・・歩け。」


光に包まれ、ついた先はレストランの目の前だった。

この状況、異世界にきたときも同じ感覚だったな。

私がここにきたのも呪文だったのだろうか。

考えこんでいると、ゴロが声をかけてきた。


「ここは食堂か。」

「そうだよ。」

「この世界には見たことがない趣の店だな。」

「異世界から来たんでね。」

「どうやら嘘じゃないようだな。」


話の腰を割るようにガラが入ってくる。


「さっきの美味しいやつくれよ。」

「わかった。ちょっとここで待ってな。」


缶詰を取り戻るとガラが爛々とした目でこちらを見ている。


「匂いにつられたなら、これかと思ってな。」

「何が入っているだ。」

「コンビーフだよ。」

「なんだそれ。」

「魚の肉だな。」


ガラが缶詰を持つと、困った顔をした。

どうしたんだろう。


「どうやって食べるんだ。」

「そりゃ缶切りで。」


こういいながら、ハッとした。缶切りはない。

さっきは熱で膨れ上がり、破裂しただけだ。

缶詰があるが中身が食べられない。どうするか。


ゴロが声をかけてきた。

「缶切りは刃物みたいなものか。」

「まぁそんなもんだ。」

「どうやって開けるんだ。」

「円状に切る取るんだよ。」

「そうか。円の形か。」

こういい缶のひとつを空に向かって投げる。

次の瞬間。左手をかざし指で円を描いた。


指の先に風が集まっていく。

風は指の流れにそい、白い気流に変化した。

気流は円を描いて、缶詰に向かっていく。

円柱の上部がパクリと空き、缶の中身のコンビーフがヌルリと出てくる。

「おお。思ったとおりだな。」


ガラがにやけていると、ゴブリンが上をみながら走ってくる。

「うまそうなものが降ってきてる。神の恵みだぁ。」

より一層走る速度が上がる。

「まさか。コイツ。」

口を大きくあけながらコンビーフめがけて走る。

そして食らった。コンビーフを。


「おえええええ。生じゃねーかよ。」


アホなのだろうか。缶詰だから生だろうよ。

あれ。なぜあの時、ガラとゴロは美味しそうに食べてた。

なんでだろう。何か条件がちがうのだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る